オープン・パブリッシングはお題目ではなく、現に進行中の現実である。問題は、環境の変化が速いのに対して、認識が追いついていかないことだ。とくに国により、業界によりばらつきが大きい。私たちはこれを、拡張された出版のフレームワークとサービスを示す、グローバルなイニシアティブとしたいと考えている。つまり、ビジネスにおいて使える実践的情報をやり取りすることで「オープン」な世界を広げて生きたいということだ。詳細は来週(6月20日)のセミナーで議論したいが、ここではアウトラインを提起する。
出版の潜在的価値の開放へ:コンテンツ&サービス・カタログ
05. 出版とは、出版物を媒介にした、社会的コミュニケーション行為である。それには出版物自体を商品とする商業出版 (commercial, for-profit publishing)のほかに、企業などの組織体の経済的・社会的活動の一環として行われる企業出版 (corporate, not-for-profit publishing)、教育サービスと密接な関係にある教科書出版が存在し、また個人やグループがその活動の社会的・文化的価値を訴求する自主出版 (self publishing)がある。社会的コミュニケーションは大きな経済価値の源泉であり、広告や有償・無償のパブリシティと結びついてきた。インターネットはさらにその潜在的価値を全面的に開放する。
不特定多数(N)をターゲットとしてきた書籍出版は、特定者を相手にする別のチャネルを得たことになる。それにより新しいビジネス機会を利用できる。
- 情報へのアクセスにコストがかからないインターネット環境では、「1対N」だけでなく、「1対X」や、受信者を特定する「ソーシャル型」など多様なトポロジーが同時に実現される。
- 揮発性の高いショート・メッセージに比べて、情報の密度、構造性が圧倒的に大きい出版物は、テーマ・コミュニケーションをリードするものとなる。
- 商業出版と企業出版、教科書出版、自主出版の間の境界は相対的なものとなり、コンテンツは出版者やユーザーのニーズに応じて取引される。
- オンライン・プラットフォームにおいて、書籍は(潜在的に)重要な広告媒体となる。また、情報の更新に要するコストは劇的に下がるから、伝達のスピードという点では新聞や雑誌との差はなくなる。
06. オープン・パブリッシングは、出版のバリューチェーンにおいて様々なコンテンツとサービスを協調させるためのフレームワークだが、これはバーチャルなプラットフォームと考えることが出来る。これは従来のような、固定的・制度的な出版流通システムとは異なる、選択の自由を前提とした市場の機能を最大化させるための理念的枠組みで、現に存在し、あるいは今後も生れてくる(様々な限定を持った)テクノロジーやサービス・プラットフォームを最大限に連携させることを想定している。
現実の出版は、新興の開放系(インターネット)と伝統的な閉鎖系(取次流通)チャネルを両極とする中間に存在する。オープン・パブリッシングは、コンテンツと(それが実現する)コミュニケーションの付加価値と高めるための方向を追求する。
- 在来の書籍とその電子版だけでなく、あらゆるタイプのコンテンツに開かれている。モノとしての本(印刷本、静的コンテンツ)のほかに、動的・対話的機能を拡張することにより、出版の世界を拡張し、再構築する。
- 新しい出版産業基盤は、市場(販売データ、メタデータ管理、版権クリアリング)、流通(販売、オンデマンド印刷、配送)、社会(図書館、アーカイブ、ソーシャル・リーディング)、製作(企画・編集・校正・翻訳…)、IT(オーサリング、CMS、…アプレット)、金融(ファンディング、決済)、マーケティング(広告、販促)など様々な分野にまたがる。
- 出版者は、必要に応じて基盤サービスを自由に選択し、組み合わせることが出来る。これを出版におけるサービス指向と考える。
- オープンパブリッシングとサービス指向は、ともにオープンな技術標準とその拡張を前提にしており、HTML5とEPUB3は、今後さらに成熟することで「サービスアプリケーションとしての出版」のニーズに対応していく。
- 選択の自由を保証する標準の範囲は徐々に拡大しているが、完全なものではあり得ない。また独自仕様のアプリケーションは、特定の環境で特定の目的を満足させるが互換性はない。出版者は技術的な選択の意味について知っている必要がある。
07. サービス指向のオープン・パブリッシングは、基本的にはコンテンツ/サービス/テクノロジーのグローバルなカタログによって成立する。テーマ/ジャンル、タイプ、フォーマット、言語、価格、権利者、利用条件、スキル、実績/評価、可用性等々に関する情報を共有することによって、著者・出版社・読者にとっての自由な選択と利用が可能となり、コンテンツとコミュニケーションの付加価値が高まるからだ。いま出版で何が出来るか、誰が何を提供しているか、どうすれば利用できるが、といった情報を必要としている。
たんなる静的なカタログ/ディレクトリではなく、随時更新され、ガイド機能を持った動的・対話的なサービスであることが望ましい。
- コンテンツとサービスは「緩い連携」によって機能し、コンテンツを豊かにし、出版の目的達成を容易にする。
- 各国に存在する種々雑多な既存のカタログを置き換えたりするものではなく、連携させることで統一的なビューを提供するものである。
オープン・パブリッシング・フォーラム=電子出版再構築研究会について
E-Book2.0(E-Book2.0 Forum、E-Book2.0 Magazine、研究講座)は、一般社団法人メディア事業開発会議(MEDIVERSE)と共同で、「オープン化するICT環境の中で、出版はコンテンツをベースにどんなビジネスになっていくのか」を、今後1年間をかけて事業会社の方々と共に模索する電子出版再構築研究会を開始します。
6月20日は、活動のオリエンテーションとして、研究会主旨である『出版ビジネスをサービス指向で再構築する』をテーマに、プレゼンとディスカッションを行います。ぜひご参加ください。電子出版再構築研究会「出版ビジネスに何が求められているか」
【主催】一般社団法人メディア事業開発会議(MEDIVERSE)
【共催】Ebook2.0 Forum
【日時】2012年6月20日(水) 16:00-18:30(150分)(予定)
【会場】ポーラ・メソッド 東京都渋谷区桜丘町31-14 岡三桜丘ビル8階(渋谷駅徒歩8分)
【対象】メディア・出版関連の企画・開発・マーケティング担当者
【定員】30人(先着順)
【参加費】1,000円(税込)【講演予定項目】
(1)特別プレゼンテーション
株式会社アイフリーク取締役 谷内ススム氏
モバイルプロジェクト・アワード2012のモバイルコンテンツ部門で優秀賞を受賞の「こえほん」の企画と利用実態
(2)サービス指向による出版ビジネスの再構築へ
E-Book2.0 Forum主宰 鎌田博樹(3)ディスカッション 出版のサービス指向とは
谷内ススム氏 鎌田博樹 小笠原治電子出版再構築研究会(オープン・パブリッシング・フォーラム)概要
Scope ビジネスモデル
- 戦略策定(IT化とともに欧米で実際に起こっていることを知る)
- プロジェクト設計(日本の環境での課題と対応を考える)
- PDCA管理(新しいステークホルダとの関係つくり)
Focus (形態/有料/無料/課金/販売/流通などを前提としない)
- コミュニケーションの変容
- サービス価値、サービス化
Process
- 1期を3ヶ月とし、その間に3回のミーティングと中間レポート
- 各ミーティングは、テーマに基づいたプレゼン/ヒアリングとディスカッション
- 1年間(4期)でビジネスモデルが描けるように進める
- Webサイトを通じた情報提供、会員間の情報交換
Output
- ドキュメント
1期 市場:商品特性/サービス、価格/流通
2期 コンテンツ/アーキテクチャ/制作プロセス
3期 出版の社会的機能/権利問題
4期 ビジネスモデル/サービスサイエンス/エコシステム
- オープン・パブリッシング・カタログ
- アライアンス
費用
- 1期あたり3回ミーティングとレポート 計1万円
- 通年で申し込まれる場合は12回ミーティングとレポート 計3万円
- 各ミーティング単独参加5,000円
開始時期
6/20 オリエンテーション「サービス指向による出版ビジネスの再構築へ」
7月下旬から第1期第1回ミーティングを開始 期間1年