出版デジタル機構が、電子出版の取次「大手」ビットウェイを買収したことについて、岸 博幸教授(慶應大学・大学院メディアデザイン研究科)が「出版デジタル機構の電子書籍取次買収は最悪の愚策」と断じている。(1)民業圧迫、(2)モラルハザード、という明快な根拠は十分すぎる説得力があり、その通りだと思う。関係者も沈黙するほかないだろう。 しかしこうすることが暗黙の既定方針だった可能性はかなり高い。でなければ、疑問と批判に答え、経緯を説明していただきたい。このままでは「1兆円」が永久に遠ざかってしまう。
奈落への道は補助金で敷き詰められている
岸教授が、“非競争領域”から“競争領域”に事業を拡大させたことを批判しているように、取次は純然たる競争領域だ。ビットウェイの買収は、JAL支援どころではない民業圧迫/介入であり、後述するように、機構の存在が拡大すれば、合法的なものであっても非関税障壁(自由貿易違反)になる。すでにデジ機構を“フルスペック”のボトルネック事業とすべく、官民の役割分担と連携が機能していると思われるが、そのことは以下のプロセスを起動することを意味する。題して、奈落への道は補助金で敷き詰められている。
- 第1、現状は誰もが知る通り、デジタル出版において「取次」は必須ではない。現に出版社はストアとの直取引で多くを出版している(約7割、取次は残余)、
- 第2、ガラケー中心の時代に活況を呈した取次業界は、最大手のビットウェイとその他競合各社がひしめき、苦しんでいる。買収の意味はビットウェイ救済と取次独占である。
- 第3、この「半官半民」のデジ機構が生き残るためには、取次を独占だけでは足らず、あらゆる(非競争的/反競争的)手段でボトルネック化せざるを得ない。
- 第4、デジ機構がさらに「非競争的」な版権預託(+管理+監視)機関を目ざすことはほぼ確実であり、著作権法改正(出版社の権益拡大)が実現すれば、直取引を圧迫する立場に立つ。
- 第5、以上により、「半官」半民のデジ機構は、出版のプロセスを規定し、著作権者、出版社、ストア、消費者の負担のもとに手数料を(排他的に)徴収する。
- 第6、以上の目論見が成就するとしないとに関わらず、出版サプライチェーンにある国内業界は、行政権力に完全に依存する存在となる。
- 第7、政府と業界によるこのイニシアティブは、事実上日本の出版を1947年以前の統制経済体制に移行させる。これは著作権法だけで事足りる。
権利者による親告制でない(つまり被害者を必要としない)「海賊取締」、ダウンロードだけで罰則が適用される「児童ポルノ」取締法などは、警察権の発動を伴う強力なものであるだけに、財産権や人権の保護という目的を越えて市民的自由に対する脅威となり得るだろう。しかしそれ以前に、出版社が流通というボトルネックについて政府の後ろ盾を求めることそのものが出版の自由を脅威に晒すものだ。政府が米国との関係を最重視する限り、アマゾンやアップルの小売事業に影響を与える「デジ機構体制」の完成は難航するだろう(ちなみにTPPの下で、これは確実に違反となり、日本政府を訴えることが可能になる。)それによって、日本におけるデジタル出版の発展はさらに遅れ、出版の危機は深まる。(図はギリシャ神話の怪獣ケルベロスとヘラクレス)
三省デジ懇は、標準という本来の非競争領域において、EPUB3の日本語仕様採択に貢献することで重要な成果を挙げた。日本の出版物の海外販売への道を開いたのだ。まだなすべきことが多いし、オープンソースの開発支援にも期待したいことがある。関係者には本来の賢明さを発揮し、競争領域への越境という愚策でエスカレーションの泥沼に落ち込まぬように期待したい。(鎌田)
参考記事
- 出版デジタル機構の電子書籍取次買収は最悪の愚策―繰り返される「JAL再生での失敗」、By 岸 博幸、DIAMOND Online、05/31.2013
- 出版デジタル機構、電子書籍取次最大手のビットウェイを買収、By 西尾泰三、ITmedia、05/30/2013
そんなことかと補助金まみれの機構を見ていたが、臆面もなく推進するとはあきれた連中だ!!
電子書籍はそんなことをせずとも、自身の生命力で、行くべき道を進むと思う。
頼むから醜い姿は見せないでくれ。