広告の重心がデジタル空間に移行するのは必然である。下の図は、主に紙の空間とデジタル空間の特徴を比較したものだが、伝達手段としての後者の優位は圧倒的であり、商業的には勝負にならない。アナログが勝つのは「実在性」「独立性」であり、本物であることだが、完成度の高さを誇れば誇るほど、広告スペースは縮小していく。もともと紙がメディアの王になったのは、高速複製手段(印刷・製本)によってだった。いまさら「本物」性を主張しても受けない。「本物」には完成度が要求され、あるいはざらにないからだ。メディアとしての価値はコンテンツとは直接関係がない。逆に価値あるコンテンツはメディア性を発揮する。
それを知るだけに、アナログメディア・ビジネスは、コンテンツを出し惜しみし、ペイウォールの向こうに引き籠る。マスを相手にする商業メディアとしては最悪の選択で、そのことによってデジタル空間におけるプレゼンスを落とし、メディアとしての力を失っていく。もともと人々が代価を払っていたのは「複製」に対してであった。デジタルは複製を無料化することで価値と価格も分離している。複製自体には価値はなく、コンテンツが実現するものだけに価値があるのだ。もちろん、既成メディアにはコミュニケーションのプロフェッショナルを擁しており、彼らはコンテンツが実現するものに敏感だ。しかし、彼らに十分な対価を支払い続けることは出来ないだろう。旧メディアビジネスは設備産業であり、クリエイティブやマーケティングは設備の稼働率に奉仕する存在だった。
メディア危機の本質:グーテンベルクの銀河系からマクルーハンの銀河系へ
「多様なコミュニケーションによって価値を創出する仕組みを社会に提供する」というメディアの機能は、デジタル空間において(既存メディアの外側で)飛躍的に発展しつつある。企業は既存メディアに頼らないB2C(対消費者)およびB2B、つまりビジネス/プロフェッショナル・コミュニケーションを高度化させている。そしてもちろん、C2Cとも言うべきソーシャル・ネットワーキングがある。既成メディアにとっての「インターネット」はいまだ「ホームページ」の域を出ていないのに対して、非メディア型コミュニケーションが伸びている。つまり、メディアビジネスが提供するとスペース、チャネル、サービスを介さない情報配信である。企業はそれ自体がメディアであるし、必要に応じて数万、数百万、数千万というターゲットに発信できる。新聞、雑誌、放送は、スポンサー自身のメディアと競争し、自身のメディア性を証明しなければならない。これは勝負にならないし、ある閾値を超えると、既成メディアの衰退・滅亡につながることは誰の目にも明らかだ。
自律的に拡大しているデジタル空間に対して、メディアビジネスはアナログ・コンテンツのデジタル複製(レプリカ)を、アナログに近い価格で提供するという、客観的に見れば最悪の選択をしている。「音楽ビジネスの轍は踏まない」と言いたいのかも知れないが、この認識は間違っている。音楽産業の失敗は、「コンテンツは王様」という甘言を信じてコンテンツを提供し、自らメディアとならなかったことだ。彼らは、クリエイターに対してメディア性を主張していたに過ぎなかった。
その点、米国の書籍産業には多少の時間的余裕があり、コンテンツを提供するだけでなく、自らをメディア化する戦略を進める道を選択した。メディアとして再構築することでメタメディアへの依存を最小限にコントロールするということである。「出版するか消えるか」(Publish or Perish) という、かつてはアカデミズムの世界のものであった言葉は、今日ではデジタル空間の一般法則となった。デジタル空間で出版しない者はメディア性を否定される。人が集まらなくなり、情報も集まらなくなる。いかに紙の上で権威を持っていたとしても、去る者は日々に疎くなるのだ。既成メディア企業がデジタルに消極的であり続ければ、その余命はわずかしかない。
メディア危機の7つの本質(まとめ)
- 紙の(コミュニケーション)上に築かれてきた文明が、デジタル=仮想現実 (virtual reality)をベースにする文明に移行している。
- デジタルは、既存の生産力と生産関係に破壊的なイノベーションをもたらしているが、この過程は止められない。
- 社会はコミュニケーション(教育)の上に築かれ、また文化と一体化しているので、変化は社会の既成の価値観から敵視される。
- メディアは社会の鏡として機能するが、旧いメディアが現実を映さず、将来も示さないことで信を失っている。
- 教育は人々に「生活」の手段を与える力を失いつつある。大組織もまた同じ。文明的に言えば、古代、中世、近世の崩壊期に続く混乱期。
- 混乱の中で多くの文化的価値が、その担い手とともに散逸・消滅することは歴史の示すとおり。すでに多くが失われている。
- デジタルはvirtual、つまり価値=目的志向であるが、社会が価値創造においてデジタルを使いこなす、新しい関係のビジョンを共有できるかが問われている。
メディアの危機ー来るべき再編に向けて
- コンテンツとコンテクスト
- デジタルでメディアの何を変えたのか
2. デジタル情報空間の分離と旧メディアの危機
- コンテクスト指向メディアの成立と発展
- 「マーケティング/メディア/現実」の不整合(前回)
- メディアの入れ子構造
- コンテンツ/メディアのギャラクシーとビッグバン
- メディア危機の本質(今回)
3. デジタル時代のメディア再構築
- 出版とメディアの価値
- メディアとビジネス
ビューティートレンドはソーシャルメディアと自分自身が作る時代
82%の女性が「ソーシャルメディアは、今日“美”に関する定義に影響を与えている」と回答し、63%の女性が「ビューティートレンドに関しては、印刷媒体や映画、音楽よりもソーシャルメディアの方が影響力がある」と答えているそうだ。
http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1402/04/news063.html