アマゾンCreatespaceは、Kindleエコシステムにおいて戦略的に重要な部分を受け持っていた。それは、デジタル中心のプロセスと市場においても、印刷本の提供が持続可能であることを保証するものだ。読者のニーズをよく理解していたアマゾンは、印刷本の制作システムの現代化に本気で取組んで、ほぼ完成したと思われる。
出版制作プロセスのデジタル化
Createspace、またはそれに代わるシステムは、確実に国際化が可能なものであるはずだ。つまり、いずれ日本にも来る。おそらくこの数年間で段階的に進むことになるが、影響は大きなものになるだろう。
なぜならばこれは「自主出版」専用ではなく、在来出版も対象とした出版ビジネス全体を対象とするサービスとなるからだ。今後本誌も、この残されたアナログ世界がどのようにデジタルに統合されていくのかを注視していくが、その前に出版におけるサプライチェーンと制作プロセス問題を整理し、10年の歴史を綴じようとしているCreatespaceの位置づけを確定しておきたい。それは、今後数年間で起こることを理解する上で重要だと思われる。
出版経験者は理解しているように、原稿が本になるまでには、「コンテンツ」に形を与えて確定する(時には恐ろしく長い)プロセスを踏む必要がある。それは情報としての密度の高いものほど長く、軽いものほど簡単だ。テキストと視覚的表現が関連する印刷本の制作プロセスは、デジタルとは異なり、内容にも反映されるものとなる。印刷本は、捺された印影と同じように訂正が現実的に困難だ。
このギャップに関して、印刷本出版者のE-Bookへの戸惑いは当然で、編集・制作ポリシーの問題となる。確定版は印刷版下であるべきだが、こちらを確定プロセスとすると、デジタル版と同じ内容とするためには、逆に面倒なひと手間が必要になる。制作は文字組版、DTP、デジタル印刷、オンライン流通も含めて、在来出版のデジタル化の最終段階で、生産性におけるボトルネックだ。在来出版とアマゾンは別の方向からここに取組んでおり、そこで今後の力関係が変わるだろう。
最後のアナログ問題
E-Bookのためのプロセスは容易だが、印刷本はより複雑で、印刷本のデジタル版はそちらに合わせるか(PDF版)、それとも独自にE-Bookフォーマットにするかといった問題が生じる。フォーマットの違いでは済まず、バージョンの違いになるからだ。
変換困難な印刷フォーマットを必要とする在来出版の、とくに既刊本の電子化が日本で進まないのは、ページをPDF化する場合は別として、コストと内容に影響するこうしたプロセス問題に明快な結論が出ないためだろう。プロセス問題は組織問題につながるために厄介で、逆にCreatespaceが自主出版にフォーカスしたのは、出版社の場合と違ってプロセスにおける合理性が追求しやすいためだ。
早く、安く、満足できる品質の印刷本は、出版社も読者も書店も、昔から必要としている。その回答の一つはE-Bookだが、まだ全員を満足させない。プリント・オン・デマンド(PoD)も、E-Bookを使った中間的な答だが、それよりも望ましいのは<通常の印刷本と同じ仕様と価格の本が、いつでもどこでも入手できる>状態に近くなることだろう。大手出版社は設備を装備することでこれを追求し、Ingramのような流通企業もネットワークで対応しようとしている。これは在来出版モデルの秘密兵器と目されているかもしれない。いずれにせよ、印刷本のプロセスをめぐる競争はアマゾンにとっても無関心ではない。◆
※本記事は『E-Book2.0 Weekly Magazine』初出(2018/2/1)、2018年の同誌アクセスランキング(有料記事)上位の記事です。
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