8月10日に開催する第5回研究講座「「“電子書籍元年”の中間総括-印刷業界の視点」への解題。電子出版では生産・流通・販売のいずれでも日本的特殊性が問題となるが、筆者は出版物の生産に印刷業が大きな役割を果たしていることが、長期的にみて最も重要な要因だと考えている。そこでまず、印刷業がE-Book出版の成長性と付加価値にどのように関わるかを考えてみたい。 ... [続きを読む]
Industries
デジタル教科書推進に必要な視点
E-Bookの最大のアプリケーションとして期待される教育分野において、小中学校向け電子教科書推進の動きが出てきた。教育と医療は公的機関の関与する巨大な市場だけにエコシステムが複雑でとくにアプローチは難しくなるが、波及効果も大きく公共性は高い。中国は電子教科書を国策として推進しており、人材と産業、市場の国際競争力も関係してくるだろう。あらゆるレベルの問題を避けて通るわけにはいかない。そこでまず視点を確認しておきたい。 ... [続きを読む]
空前のiPadビジネスモデルは成功するか?
メディア業界はアマゾンを嫌ってアップルに走ったが、そこには巧妙な罠が仕掛けられていた。アプリを支配しアプリをめぐるインタラクションを支配するという意思を、アップルはもはや隠そうとしていない。たしかにそれだけの魅力があるプラットフォームでありインタフェースだ。信者も無数にいる。しかし、オープンなWebの世界と隔絶した帝国を築くなどということが、21世紀に可能であるとは思えない。しかし、どうあろうとこの最後の(?)挑戦は、あらゆる業界に大きな影響を与えることになるだろう。 ... [続きを読む]
iPadおそるべし、早くもKindleを追撃
1ヵ月で100万台を売ったiPadだが、iBookStoreのほうはどうなのか。販売開始1ヵ月あまりのiPadが、E-Book市場で急伸しているという、かなり確実な情報が出てきた。これは本誌の予想を覆すもので重大な意味を持っていそうだ。つまり、早くも今年中(あるいは数ヵ月中)には、iBookStoreのシェアがKindle Storeに次ぐ2位を占めることになる。タブレットは若い世代のE-Readerとして定着を始めた。 ... [続きを読む]
E-Bookと印刷業 (6):デジタル時代こそ創造的協調
鎌田の「デジタルプラットフォーム」論にたいする中西秀彦氏からの返信。「攘夷か開国か」「勝つか負けるか」という単純な「ますらお」発想にたいして、「電子書籍が本格化すれば、印刷と出版編集それに著者が対等な立場で協力し合いコンテンツをつくりだすという時代が来る」と考える「たおやめ」発想の重要性を、日本的な特殊性を踏まえて説いておられる。印刷会社の課題は、これでとても鮮明になった。むしろ問題は、出版社がデジタル時代の新しい編集、本づくり価値を提示できるかどうかだ。 ... [続きを読む]
E-Bookと印刷業 (5):デジタルプラットフォーム
中西秀彦氏から頂戴した前回の「軟着陸戦略」は含蓄に富んだものでとても刺激された。音楽や写真を例にした悲観論が世に蔓延しているが、もともと本を読まない人間は別として、印刷・製本された本は、リアルな体験としてこれからも必要不可欠な文化的要素だと思う。現に、欧米ではE-Bookの拡大と不況が重なったにもかかわらず印刷本市場は減っていない。怖れるべきはデジタル化ではなく国民の「文盲化」ではないか。そこで、E-Bookが活字市場を活性化させ、印刷需要を減退させないための条件を提案してみたい。さらに中西氏や読者諸賢のご批判をいただければ幸いである。(鎌田) ... [続きを読む]
E-Bookと印刷業 (4):生き残りをかけた軟着陸戦略
前回、鎌田は「版」を中心とした付加価値ビジネスを追求せよという趣旨を書いたが、困難な挑戦であることは間違いない。案の定、中西氏からは「きれい事」というお叱りを頂戴することとなった。泥臭くてもしぶとく時間を稼ぎつつ、印刷業界に有利な形での軟着陸の方法論を示さねばと考える氏は「紙と電子のハイブリッド」を提唱し、過渡的段階でのオンデマンド印刷を重視する。さすが京都人! じつはこのハイブリッドは欧米の出版社の戦略にもなっている。これまでのところ紙が電子に食われるという兆候はないからだ(鎌田、4/18)。この対論もいよいよ核心に入っていきそうだ。 ... [続きを読む]
ソーシャル・パブリッシングとは何か:共有即出版
本誌のスタンスは、出版とは情報を共有可能なものとすることが基本、ということ。何を売りたいのか、情報を普及させたいのか、本かチラシか、文学かマンガかなどはすべて二次的なことと考える。デジタル時代はそれを常識としないと判断を誤る。出版はWeb時代のビジネスのメタモデルとも言えるものだ。個別のビジネスモデルは、そこからいくらでも生まれてくる。今回取上げる「ドキュメント・リポジトリ」あるいは「ソーシャル・パブリッシング」サービスもその一つだ。 ... [続きを読む]
E-Bookと印刷業(3):版が付加価値を生む
紙の呪縛からの解放を説いた中西秀彦氏への鎌田の提案。印刷会社を苦しめるのもデジタルだが、希望の光となるのもデジタルだと思う。デジタルは印刷物を補完し、次いで吸収して、印刷物に補完される存在となる。印刷よりも電子化された版の価値が評価される時代が来た。印刷業としては、この版を核として付加価値を形成することで、出版社とともに電子出版の一翼を担うことができる。それは一面では「情報処理」ビジネスだが、従来のいわゆるITとも違い、印刷ビジネスとの親和性が高いと思われる。 ... [続きを読む]
E-Bookと印刷業 (2):紙の桎梏と呪縛からの解放へ
「印刷業こそが電子書籍の先頭にある」という鎌田のメッセージに対する中西秀彦氏からの返信。反響を呼んでいるブログ「抵抗勢力たらん」の真意は、出版界の安易な電子化への動きを牽制しつつ、印刷業界に歴史的な変化への対応を促す檄文であったようだ。あまりに身近であっただけに、印刷と出版が未来志向のパートナーシップを再構築するのは容易ではない。それにはまず、ともに「紙の桎梏と呪縛から解き放たれ」ることが必要だろう。これが対話の出発点になりそうだ。 ... [続きを読む]