筆者はOMGという国際標準化団体に関わっていたので、そこでの活動の表と裏を見る機会があり、多くを学ぶことが出来た。いちばん感銘を受けたことは、激論やごり押しや根回しといった(どこにでも見られる)風景だけではない、高い知性と公徳心を持つ人々の理性的な議論と、稀にしかお目にかかれない民主主義というものだった。そこでは言葉の壁などは、あまり問題にならない。ちゃんとした技術を持ち、目標を共有している限り、味方はつくれるのである。そうした意味では戦いは「日本対世界」といったものでは絶対にない。 ... [続きを読む]
Beyond Books
EPUB戦記(7):世界標準に縦組という奇跡
EPUBは、W3Cの3標準(HTML、CSS、SVG)をベースとしているので、それらにない機能は入らない。ないものは間に合うように大急ぎでつくるしかない。それに日本と台湾でしか使われていない機能を世界標準に盛り込ませるには、相当の説得力と腕力、あるいはそれ以上のものも必要だった。奇跡とも言える1年半を見ていく前に、何をクリアする必要があったかを要約しておきたい。 ... [続きを読む]
EPUB戦記(6):国際標準化の舞台
EPUB3標準に縦組仕様を盛込むプロジェクトの成功のドキュメントについて、できるだけわかりやすく描くのが筆者のミッションである。中心的な役割を果たした人々の話を順次紹介していきたいが、内容は簡単にまとめられるものではないし、それを理解していただくためには、国際標準化という、あまり世間では知られていない背景について、筆者なりにまとめておく必要を感じている。個人的にも20年近く関わったが、理解が進まないことには理由がないわけではない。 ... [続きを読む]
出版コンテンツを考える (1):<本>とコンテンツ
「コンテンツ」は、具体的な形をとり、流通して初めてコンテンツとなる社会的、関係的な概念であって、これで商売をするためには、「中身」よりもよくよく形態や機能を考えないわけにはいかない。価格についても、権利についてもそうだ。そこで具体的なプロセスと機能の面から、流通するための条件を考えたいわけだが、漠然とした言葉だけに、これまで不用意に扱われ、あまりに多くの錯覚、倒錯を生み出してきた。まずこれを脱神秘化しておきたいと思う。 ... [続きを読む]
Web出版環境とは何か:DD研参加記(3)
前回は、EPUB3によって「Web出版環境」が完成した、ということを述べた。これは印刷本の電子的複製とは次元が違う、デジタルドキュメントとしてのE-Bookの潜在力が全面的に開放されたことを意味する。JLreqを含むEGLSがEPUB3に盛り込まれたおかげで、われわれは幸いにしてこの革命にそう遅れずについていくことが可能となったわけだが、そのために知っておかなくてはならないことが多い。 ... [続きを読む]
Webを出版環境に変えた活字組版:DD研参加記(2)
デジタルドキュメントとE-Book:DD研参加記(1)
E-Bookに関わる技術は「デジタルドキュメント」だ。歴史は非常に古いが、Web環境の進化とともにダイナミックに変容した。簡単に言えば、ドキュメントに対してあらゆる情報技術を連携させることが可能になったということだ。このことは、日本ではほとんど理解されていない。人々が「インターネット」で総称しているものの核心は、デジタルドキュメントにあり、本質は知識コミュニケーションのデザインにあるのだが、多くの人が紙の文書に対する電子文書という側面でしか考えていないからだ。E-Bookと同じように。 ... [続きを読む]
EPUB戦記・ノート(5):技術の宿命
昨日は「EPUB vs. XMDF」について書いたが、このタイトルには違和感を感じる。技術的に比較してもあまり意味がない。対置し競争させようにも、じつはそもそも同じ平面には乗っていないからだ。XMDF(とDotbook)はEPUBとはまったく違った性質(あるいは宿命)を持っている。ベクトルが違うと言ってもいいかもしれない。これは前提とするビジネスモデルが違うためだ。この違いを隠してきたことが、「元年」へのエネルギーを空転させ、無化させた原因だと思う。しかしその最大の被害者は、シャープであったようだ。 ... [続きを読む]
EPUB戦記・ノート(4):EPUB vs. XMDF
第1回では「筋書きが気になる」というコメントをいただいたが、これは筆者も同様だ。プロジェクトX風に、挫折を見た「男たち」が立ち上がり、壁を乗り越えて縦書を「世界」に認めさせ、めでたしめでたし、というドキュメント風フィクションの型は趣味ではない。このテーマにはいくつものコンテクストがあり、それによって緊張が生じ、バトルが生まれた。その過程で見えた日本社会の問題(技術的停滞と閉鎖性回帰)と、それを未来へ向けて変えていく力についてこそ書きたいと考えている。ここでは2つのコンテクストについて述べる。 ... [続きを読む]
EPUB戦記・ノート(3):E3Jにとっての壁とは
E3Jプロジェクトの成功にはかなり謎が多い。メディアがほとんど取り上げなかったので情報が乏しい。フロックなのか、それとも日本人の国際標準化への関わりに新境地を拓いたものなのかを明らかにすることは、この 企画の最大のミッションだと考えている。自他ともに「特殊」とされてきた縦組を、どうやって国際標準の本体に入れられたのか、そして大企業や業界や国の支援もなしに出来た背後に何があったのかということである。もしかすると、なかったからこそ成功した可能性も含めて。 ... [続きを読む]