伝統的なメディアビジネスは、情報の複製・配布コストが劇的に下落したことにより、存立の危機に立っています。出版には経済行為と表現行為、という2つの側面があり、これらが融合することで、知識情報を伴う創造的なコミュニケーションという社会的価値が提供されるのですが、旧秩序に代わる新たなエコシステムの形成は21世紀の最大の課題といえます。本フォーラムでは、創造的ビジネスモデルを考えていきたいと思います。
新しいエコシステムを求めて
出版は、つまるところ、販売・配布する目的で情報を製作(作成・編集・加工)複製し、発行することを意味します。扱う情報の形態(文書、図画、映像…)や複製技術(印刷、符号)、搬送媒体(書籍・雑誌、CD/DVD)、配布方法(配送、電信)からも、また発行者(出版社、組織…)やその目的(営利、広報、宣伝)からも独立していることが重要です。ただし、私たちがそのことを意識するようになったのは、つい最近のことでした。出版と印刷(あるいは活字)とはほぼイコールでした。
過去半世紀あまりの電子技術の発展が、出版物の執筆・編集・制作から複製・配布に至るすべてのプロセスを順次サポートし、さらには情報そのものの形を大きく変え、それと同時に広告を多用した様々なビジネスの形態が発展し、伝統的な出版社を窮地に追い込んできたのは周知の通りです。情報の複製・配布コストが劇的に下落したこと、そして費用負担の構造が大きく変わったことが、この歴史的変化を短期間にもたらしたのです。
これまで出版は、印刷・製本された「書籍・雑誌」に代表され、書店に運ばれて店頭に並ぶのが既定値と考えられてきました。その関係があまりに長く続いたために、出版のコスト構造とビジネスモデルを問い直すことは、ほとんどありませんでした。それは出版社が次々に廃業に追い込まれている現在でも、あまり変わっていません。まして、巨大な輪転機という生産手段と全国的な配布網を保有し、広告媒体として圧倒的な地位を保持してきた新聞社が、ビジネスを考え直す必要は最近までありませんでした。しかし、情報の複製・配布のコスト構造を変えるデジタル化は、新聞にこそ最も深刻な影響を与えることは、ほぼ確実になっています。新聞はジャーナリズムという社会的機能を果たしているだけに、たんなるビジネスの問題では片付けられません。
出版は必ずしも商業的な形態をとる必要はありませんが、出版には基本的に経済行為と表現行為、という2つの側面があります。これらが融合することで、知識情報を伴う創造的なコミュニケーションという、社会的価値が提供されているもので、この点はこれからも不変であると考えられます。問題は、伝統的な出版を支えてきた技術的、経済的、社会的基盤が風化し、新しい関係が、独自のビジネスモデルという部分最適をもとめて次々に生まれているなかで、そして技術やサービスが進化する中で、いかにして創造的で安定したエコシステムを形成していくかということです。 たとえば、
- 有償モデルと広告モデルはどのように共存していくか
- インテリジェントな技術によりどのような新しいサービスが生まれるか
- コンテンツとメディア、配信サービスの関係はどのように展開するか
といったテーマを皆様と考えていきたいと思います。 (10/14/2009)