本は一つの小宇宙であり、完結した知識空間としてデザインされています。しかし電子化された本は、さらに大きな(あるいは異質な)知識・情報空間と関連づけられることによって、別の読書体験への扉を開いてくれます。電子書店、電子図書館、電子テキストの時代のデザインは、知識を必要とする読者の体験 (User Experience=UX)を最大化・最適化することが課題となるでしょう。本サイトは、その方法を考えていきます。
コンテンツのデザインから「体験」のデザインへ
Webは、ナビゲーションによるソースへのアクセスと動的サービスをどこでも利用できる環境として提供したことにより、出版に画期的な進化をもたらしました。さらに様々な対話を可能とするソーシャルネットワーキングの環境も生まれました。本は構造化された知識情報の容器として完成されたコンテンツから、知識をもとめるユーザーに提供される「体験」の一部となったということです。
本の構造と表現に関する技術は何世紀もかかって発展してきたものです。過去20年間のWebと電子書籍の進化は、そうした完成系としての「本」を超えた、環境としての電子図書館や電子書店、さらにはそれらをプラットフォームとした多様なサービス環境を実現しました。そこではユーザーエクスペリエンス (UX)が最も重要な要素となるでしょう。
コンテンツとUXとは、たとえば「料理」に対する「食事」、商品に対する買い物、音楽ソースに対する「鑑賞」ということで理解されるようなものです。「食事」の満足には料理だけでなく、空腹や相手、雰囲気などのセッティングが関係します。最高の料理も、つねに最高であるとは限らず、また顧客が最高の満足を得る組み合わせを知っているわけではありません。
これまで出版関係者は、苦心惨憺の末に読者のニーズを推測し、様々な制約の中で独立したコンテンツをデザインし、プロデュースしてきましたが、多くは読者の知るところともならず、購入されたとしても知識として使われることはありませんでした。これは知的・物的資源の膨大な浪費というほかありません。新しい電子出版の環境では、UXをターゲットとしたUI、インタラクション、情報アーキテクチャが急速に発展していくでしょう。すでにiPod/iPhoneやKindleがコンテンツを超えた体験の世界を切り拓いています。本フォーラムでは、UI/UXに関する情報をフォローし、また議論を展開していきたいと思います。