ガラパゴスは日本語WPの栄光を見るか

シャープは9月27日、同社が展開するXMDFを核とした電子書籍事業のブランド名をGALAPAGOSに決めたと発表した(特設サイト参照)。第1弾として、12月に端末とサービスをリリースする。第1弾として、10.8''タブレットと、5.5''端末を12月に発売する計画。事業の方向性は夏に発表されていたが、今回の発表はかなりインパクトの強いもの。問題点=課題をあげてみた。(本記事は09/30号の予稿です)

日本語ワープロの栄光と運命

晩年の高性能カラー版「書院」(1994)

なかなか“自虐”的なネーミングだが、好みが分かれると思うので、コメントしない。とりあえず端末を中心に考えたいが、本誌は、過剰なまでにモノにこだわりながら、日本の出版業界という窮屈な環境に置いた結果、身動きがとれなくなるのではないか、という懸念を持っている。汎用機として十分なハードウェアの実力を持ちながら、電子書籍のような狭い用途に限定するのは、不合理ではないかと思うのだ。

かつてこのガラパゴスには豊かな国内市場を背景にした「日本語ワープロ」という、特殊な進化をとげたデバイスがあった。文豪とか書院といったネーミングに、当時の自信がうかがえる。やがてパソコンとの競争に負けてソフトウェア・アプリケーションとなり、最終的に海外ワープロ製品の「日本語版」によって淘汰された。日本語ワープロが日本語処理技術に優れていたことは言うまでもない(それにオフィスアプリケーションすら搭載した。存続したらもちろんWebに対応したろう)。15年あまり生存したのでビジネスとして悪くはなかっただろうが、専用フォーマットのデータを抱えたユーザーはどうか。筆者の友人には専用ワープロをこよなく愛し、これで表計算を覚え、重たい名簿や書誌目録を作成してデータ化した人がいた。

Wordの日本語機能が時間をかけて長足の進化をとげたのはなぜか。もちろん優秀な日本人が開発に参加し、組版の知識を取り込んだからだ。グローバル企業ではたらく日本人が、日本語機能を実装できないなどということがあり得ようか。

ガラパゴスが直面する5つの難題

さて、ガラパゴスについて、気になるところはとりあえず以下の5点。

  1. 専用端末としてのタブレッ:タブレットは汎用的なメディアプレーヤーで、米国ではPCやネットブックの代替に近い使われ方をしている。アップルはこれまでのところiPadが汎用化するのを嫌っているが、Android機が急追してくるようならば、変える可能性はある。汎用化は価格競争に巻き込まれるリスクがあり、専用化は売れにくいリスクがある。周知のように、日本メーカーはアップルと同じく価格競争を嫌う。世界市場は、かつてのように安くてクールな汎用製品に期待しているから、これは少なくともグローバルなトレンドからは外れる。
  2. 配信プラットフォーム:シャープは、いわゆる「クラウド+デバイス」型のアプローチを選択した。アマゾンやアップルと同じで、一貫したインタフェースとユーザー体験(UI/UX)、ユーザー(読者)との強い結びつき、サービス品質が提供できる半面、メーカーとしてはまったく未知の次元の問題に遭遇することになる。配信プラットフォームの実力は、サーバのパワーやサポートする機能より、ユーザー(数、プロファイル、追跡可能な履歴)である。消費者を個客として掴めない企業にはまったく十分ではない。
  3. 誰のためのサービスか:アップルもアマゾンも、あるいは他のE-Book配信サービスも、米国のコンテンツサービス・プラットフォームは、一様に「顧客第一、出版社第二」という姿勢を明確にして支持を得てきた。出版社の反撥に遭いながらも、アマゾンの新刊本は$9.99を、アップルのアプリは$4.99を推進している。また、アマゾンでは購入後1週間という、出版社にとっては「あり得ない」ようなキャンセル期間を設けているが、これらは「顧客の満足が第一」というeコマースの原則を適用している。シャープに同じことができるだろうか。あるいは従来の日本的スタイルで通用するだろうか。
  4. 版元の支持はアドバンテージか足枷か:数ヵ月前には考えられないほど、日本のE-Book(あるいはモバイルコンテンツ)市場は多くの参入者を迎えることになった。大手出版社系(パブリ)や書店系(紀伊国屋BookWeb)、独立系(パピレス、eBook Japan)などがあり、さらに制作を行っている大日本印刷や凸版印刷によるプラットフォームが立ち上がる。結果的に、ガラパゴスはパブリと密着したものとなる可能性が強い。大手出版社の一致した利害を背景にすると、どう考えてもトーハン、ニッパンの電子版にしかならない。ガラパゴスには小さすぎないか、という懸念がある。ユーザーからみて訴求できる魅力がよほどないと、iPadやKindleには勝てないだろう。アップルはiPod/iPhone/iPadの個客を持ち、アマゾンはその上に印刷本・古本・電子書籍の3つを押さえる。
  5. 日本と世界とのギャップ:これまで日本メーカーは、激しい国内競争を通じてコスト・機能・デザイン・サービス・品質を切磋琢磨することで、世界市場をリードする製品を出すことができた。製品そのものがマーケティングの代わりをし、ユーザーが宣伝してくれるという、現在では考えられないような状況だが、活力に満ちた日本の消費市場であったからこそ可能だった。現在の日本の消費市場は無残な状況で、ソニーも東芝も、日本を避けて欧米から着手している。

シャープは日本にとって貴重な存在だけに「ガラパゴス」がたんなる“夢よもう一度”でないことを切に願う。(鎌田、09/27/2010)

参考記事

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Comments

  1. 引用させていただきました。シャープの”GALAPAGOS”頑張って欲しいですね。応援していきたいと思います。

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