モバイルWeb戦争の開始を告げる「電子書籍」(♥)

モバイルWebが21世紀の巨大市場となることは確実だけに、通信会社は非電話系デバイスとサービスに積極的に関与しようとしている。iPadでソフトバンクに先を越されたNTTドコモとKDDIは、ともによく似たアプローチで「電子書籍」にフォーカスとした事業を立ち上げた。しかし、同様の「プラットフォーム」の乱立が、果たして創造的な競争につながり、日本の市場を新たな段階に進めるかどうかは定かでない。このスタートラインから次の一歩につなげる条件を考えてみた。(全文=♥会員)

日経新聞が9月24日と25日の記事で伝えたところによると、NTTドコモ(+大日本印刷)とサムソンが電子書籍事業で提携することが明らかになった。KDDIはソニー+凸版印刷という、各業界の「東西の横綱」が揃い踏みする、かなり日本的な構図ができつつある。とはいえ、タブレットでの電子書籍配信ではソフトバンクがアップルとともに先行しており、キャリアが主体にならないGALAPAGOSも登場したりで、横綱が先行しているわけではない。

1. モバイルWeb市場としての「電子書籍」

モバイルWeb市場は、米国でPC Webよりはるかに大きくなるとみられているが、日本では形成が2年以上遅れてきた。もちろん日本型携帯市場のせいである。高度に発達した携帯市場のおかげで、インターネット世界への進出が遅れ、そこをソフトバンク=iPhoneに衝かれた形となった。Androidフォンを投入したものの、まだAndroidの比較優位を訴求できていない。非電話系モバイルデバイスの市場は、iPadで始まったが、Android機が年内に出そろうまでは事実上の独占状態が続く。

モバイルWebは、スマートフォン非電話系デバイスに分かれる。コンテンツ側からみれば画面サイズ以上の違いはなさそうだが、通信会社からみるとかなり違う。電話はホームグラウンドだが、Web情報系サービス(コンテンツ、クラウド…)はそうではないからだ。スマートフォンが電話を軸に出来たのに対し、非電話系では、そういう軸がないから、ゼロから考える必要がある。あるいは市場の方からアプローチしてくるのを待つことになる。進んで考え、行動したのはソフトバンクで、考えずに待ったのはドコモとKDDIだった。話題のiPadがほぼ独占される事態になったことはショックだったに違いない。奇しくも同時期に同一のスタイルで参入することになったのは、トラウマの大きさを物語っている。しかし、約10万冊余りの日本語コンテンツをいくつものプラットフォームが、ほぼ同じサービス内容で競うビジネスは、どうみても有望とは思えない。とりあえずの布石といったところだろう。

基本的にタブレットの用途は、メディアプレーヤー、電子書籍リーダ、ゲーム機、ビデオ通話機、ビジネスコミュニケーション・ツール、PC代替等々、多様に広がる。いずれもインターネットへのアクセスを必要とするから、通信会社ほうではデータ通信の需要には困らないはずなのだが、それでも本にこだわってくれたのは、やはりiPadの威光なのだろう。現実的には、他の用途を主とし、本を従としたほうがよかったように思う。それは次のような理由からである。

2. 「電子書籍端末」としてのLCDタブレットと電子ペーパー

筆者がEBook2.0 Forumに書いたように(9/16)、本を読む道具としては電子ペーパーの専用リーダに軍配が上がる。晴天の屋外で読む必要があるかどうかは別として、1時間以上続けては読みづらいLCDタブレットをわざわざ買うのは酔狂というものだろう。つまり、本はあまり読まないが、タブレットは多用途機として欲しいか、それとも拡張E-Bookアプリを体験したいか、といったユーザーだ。現在はスマートフォンかiPadか、という選択肢しかないので、その延長で発想するのは間違いだと思う。KDDIとSony Readerの組合せは、ドコモとSamsung Galaxy Tabの組合せよりは「書籍」向きで、その点ではいいのだが、これまでの売れ筋である<マンガとアダルト>を鑑賞するにはいかがなものか…とも思える。デバイスとコンテンツのミスマッチは修正していかなければならない。。

どうも「書籍市場」と「電子書籍」市場(とくに消費者)についての正確なマーケティングが、まだできていないのではないかという気がしないでもない。「書籍」というのは(いや何でもそうだが)ひと括りにして、あとは検索可能にすればいいものではない。バーチャルブックストアのデザインは、現実の書店の店舗デザイン、棚の配置や品揃えと同様、相当の知恵と工学的プロセスが必要で、それはITプラットフォームと同等以上に難しいことだと思うのだが、これまでのオンラインストアは、本好きを遠ざける要素があまりに多かったと思う。そうした点で新しいUI/UXの提案がないと、またまた「プラットフォーム」が、と思ってしまう。

入口はどうあれ、きっかけは何であれ、この国の現状ではとにかく行動することが最も重要で、勘違いはあとで修正していけばよい。電子書籍プラットフォームについて両グループに期待したいことは、たとえば次のようなものだ。

  • アップルをしのぐUI/UXデザイン
  • 目的、関心、背景などを異にする具体的なユーザーが満足できるサービス環境
  • 数は少なくても価値があるコンテンツの電子化
  • 出版社が直接参加できる環境(SNS、独自カタログなど)
  • 出版社、出稿者が使いやすい広告プラットフォーム
参考記事

「ドコモとサムスンが電子書籍で提携 ソニー・KDDI連合もiPad追撃 端末や回線一括提供」、日経新聞、09/24/2010

「電機・通信が電子書籍で連携iPadに対抗:サムスンとドコモ、ソニーとKDDI 端末・回線・コンテンツ連動」、日経新聞、09/25/2010

「NTTドコモ、サムスン電子製タブレットGalaxy Tabを発売へ」、by GaApps、GAPSIS.jp、9/25/2010

「ドコモ、電子書籍事業に本格参入へ 大日本印刷と提携」、朝日新聞、08/03/2010

「ソニーなど4社が電子出版事業で共同会社設立、Readerも日本で年内発売」、by 三柳英樹、太田亮三、Internet Watch、05/10/2010

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