流動化する“E-Book以後”の出版契約

この1年の間に、米国では出版市場におけるE-Bookの重みは増したが、同時にビジネスモデルや契約モデルも大きく変動した。出版社にとっては、 変化という以上に、明日の市場環境が読めないこと頭を悩ませている。著者との出版契約は日々の問題だが、どうやら変化を前提とし、柔軟性を持った期間限定・バスケット型契約で当面を乗り切ろうというものが主流になりつつあるようだ。

過去5世紀あまりの間、出版のほとんど唯一の手段は印刷であり、出版社は最大のリスク負担者だったので、この前提のもとに契約はゆるやかで(時に契約すらされず)、多くの問題は個別に処理されてきた。この前提が崩れた以上、出版契約は長期・ 安定的ではなく、期間限定のものとなる。10年先のことは読めないからである。米国の著者エージェントの多くは、すでに3~5年の短期契約を提案している。販売価格もマージン、想定売上も揺れ動く中では、契約の数字を決めるのは困難だからである。

まず、電子化権の扱いがある。出版社は当然ながら印刷本とE-Bookの両方の権利を持って、権利の存続期間中、最大のパフォーマンスを発揮させたい。翻訳、ペーパーバック、オーディオブック、映画化などと並ぶ収入源であると同時に、全体としての販促手段にもなる。もっとも、“売れる”本の場合だが。しかし、著者エージェントはマージンなどによっては電子化権を留保することもある。電子化権を別扱いする判例などによって、交渉での力関係は著者側に有利に展開している。

しかし、出版プロジェクトが(あまりにリスクの大きい)一種のベンチャービジネス的なものである以上、多くのケースと変動条件についての想定を含めた新しい契約スキームを考えたほうが合理的だ。さすがというか、契約のプロが揃っている米国の出版業界は、こうしたスキームを積極的に開発している。出版社のリスクの多くを占めていた前渡金、販促努力のほか、価格と販売成果、追加的販売チャネルなどが変動要因となり、また改訂、拡張、転載、海外販売、翻訳などが付加的な利益機会として重要になる。これらをいちいち交渉していたのでは時間がもったいないので、一括して3~5年を立上げ期間として契約し、経過を見て自動延長か変更かを決めようというのが最近の傾向だ。

万一ベストセラーにでもなれば、出版社は印税のアップに応じなければならず、逆に売れなければ、著者はダウンに甘んじるか、それとも契約を延長せず、別の出版社を探すかを決めることになる。著者の選択肢と権利は増えるが、そのかわり出版社は前渡金を支払う義務はない。合理的ではあるが、伝統的な契約と比べて先が読めない。それだけに、このスキームが普及するかどうかは、デジタル化への移行の程度にかかってくるだろう。コンサルタントで出版業界のシンクタンクBISGの著作権小委員長を務めるエミリー・ウィリアムス氏は、「もし今日のE-Bookが、出版のフルデジタル化の先ぶれで、いずれ印刷本がなくなるとすれば、革命はすぐそこまできていることになる。」と述べている。

少なくとも米国市場では、E-Bookは200%以上の拡大を続けている。いつか伸びが鈍化し、E-Bookが紙よりも優勢にならなければ、旧来のスキームが残るだろう。しかし、現実には紙とE-Bookが共存する場合もあれば、どちらか一方になる場合も多くなるだろう。デジタル専門出版社が成長し、一部の本について特別に“印刷化権”が取引の対象になる可能性もある。契約オプションが多様化することは間違いない。(鎌田、09/18/2010)

参考記事

Copyright, Ebooks and the Unpredictable Future, by Emily Williams, Digital Book World, 8/27/2010

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