プロフェッショナル・タブレットへの期待(♥)

Research In Motion社 (NASDAQ: RIMM)は9月27日、BlackBerry PlayBookタブレットとBlackBerry Tablet OSを発表した。PlayBookは2011年初頭に北米で発売し、第2四半期より他地域へ展開する計画(つまり年末商戦には間に合わず!)。ARM Cortex A9 (1GHz)で動作し、7''(1024x600)マルチタッチスクリーン、カメラ×2を装備、通信はWi-FiとBluetooth 2.1+EDR。重量は400g。3G/4G対応機は後回しとなるもよう。(全文=♥会員)

「世界初のプロフェッショナル・タブレット」ラザライディス CEO

カナダのRIM社とBlackBerryは、日本では(外資系企業以外)あまりなじみがないが、北米を中心に最も成功した(PDA由来の)スマートフォンだ(世界シェア18%)。iPhoneの成功、Android搭載機の躍進で、コンシューマ市場ではやや影を薄くしてきたが、携帯のNokiaとともに、モバイルデバイス・メーカーとして最も注目を浴びる存在。そのRIMがタブレットを出した。年末商戦を逃したことで、サムソンやデルなどに後れをとったが、単純に他のタブレットと比較できない内容がある。ネーミングは、事前に噂されていたBlackPadではなくPlayBook。OSはQNX Neutrinoだった。

米国語と文化になじみのある人ならば、プレイブックと聞いてすぐにピンとくる。これはアメフトで使われるチーム戦術のすべてが詰まっている極秘資料を意味する。アメフトは非常に複雑・精密で知的なゲームでもあるので、ヘッドコーチはプレイブックをもとに選手とコミュニケーションを行い、サインプレイを指示する。そこから転じてビジネスでも日常的に使われるようになった(マーケティング・プレイブックなど)。米国人にとっては、プレイブックは「遊びの本」ではなく「兵法の虎の巻」ということになろう。名は体を表すというわけで、PlayBookはビジネス市場をターゲットにしている。間違ってもこれがマルチメディア・ゲームのマシンとして開発されたと考えてはいけない。たとえOSがゲームにも好適としても (QNX社はビデオゲームによいと言っている)。

ビジネス・タブレットにまず必要なのは、余裕のあるハードウェアの上で稼働するマルチタスキング環境と、企業レベルのニーズに応えるデータセキュリティ・サービスなどとなる。PDAと企業アプリケーション(ワークフロー、プロジェクト管理など)との同期は、BlackBerryの導入企業から要求されていたことだ。しかし、アクセス可能にするのは簡単だが、ビジネスシステムの一部として必要な堅牢・高速性・安定などを実現するには、iPhone OSやAndroidよりひと世代旧い、BlackBerryのOSはあまりに非力だった。原発の制御にも使われているQNXをベースとしたのは、きわめて正しい選択と言える。Wall St. Journalのドヴォラック記者は、BlackBerryのOSもQNXに転換することになるとみている。

いまひとつの要となるのは、ビジネスシーンに相応しいルック&フィールとUI/UXデザインだ。これはかなり難しい。「仕事も遊びも」「会社も家庭も」という中途半端は、ロクなデザインを生まない。ビデオでみる限りだが、PlayBookは「プロフェッショナル・タブレット」を名乗るだけあって、うまくデザインされている。すぐに欲しくなる個性とシャープさが感じられる。iPadのように、仕事に使って誤解されるようなことはない。これは重要な点だと思う。

高性能・高信頼性のQNX OSを使いこなせるか

OSのQNXは、これも日本ではあまりなじみがないが、高い信頼性を持つリアルタイムOS。筆者も知らなかったが、QNX(を提供するQNX Software Systems)は今年4月にRIMが買収していた。Palmを買ったHPより賢明だったかもしれない。オープンソース系の開発環境とソフトウェア資産を継承しつつ、Linuxなど現在のアーキテクチャの主流から外れ、組込みシステムに最適化された、コンパクトで柔軟な構造を採用している。その上、現在組み込み市場で使われているほとんどのCPUで動作する。HPやIBMが高値で買収しなかったのが不思議なほどだ。

1980年にRIMの地元にあるウォータールー大学の二人の学生が開発したマイクロカーネル型OSが発祥のQNXだが、この30年の環境の激変を見事に乗り越えて成長し、航空機、鉄道、医療機器、通信機器などの分野で多くの導入実績を持っている。簡単に言って、LinuxやWindows系よりはるかに軽く、信頼性が高い。それ自体で多くのクライアント・アプリケーションを駆動する必要のないインターネット環境では、製品への実装が容易で効果的に動作するので、これは少なからぬアドバンテージとなるだろう。他方で、やはり開発環境がAndroidやiPhone OS、それにWindows(モバイル版=開発中)と大きく異なったりすると、後発の不利は免れないだろう。いくらQNXが(とくにオンライン)ゲームにいいといっても、複数のプラットフォームに対応しなければならないゲーム・ベンダーには負担が重いかもしれない。

ビジネスE-Book環境としてのPlayBook

すでにアマゾンは、Kindle for PlayBookアプリを開発・提供する意向を表明している。つまり、Kindle Storeで買った本はPlayBookで読めるということだ。おそらくB&WやKoboその他のオンライン・プラットフォームも同様にするだろう。PlayBookはフルWebブラウジングが可能でHTML5とアドビのFlashをサポートする。Flashはアドビとの関係を無用にこじらしたアップルのおかげでまだアドバンテージになりうる。HTML5とFlashのサポートで、どれだけ早くアプリの少なさを解消できるかどうかが注目される。

PlayBookはプロフェッショナルのためのもの、という。ここでプロフェッショナルとは、モバイル環境で複雑・高度な(つまり知識情報に関わる)コミュニケーションを処理しつつ、多様なドキュメントを読み、作成し、計画の策定と進捗管理、意思決定に関わる存在だ。マニュアルやルールブック、ジャーナル(新聞、雑誌)などは、たんなる表示を超えてアクティブでダイナミックなものである必要がある。これまでPCやネットブックしかなかったのだが、強力・堅固なOSでサポートされたWeb環境は、21世紀的なビジネス情報サービスの環境として理想的なものとなるかもしれない。ビジネス出版(カタログ、部品表、マニュアル、テキスト)やフォーム・アプリケーションなどが考えられる。

これまでiPadをビジネスに使おうと試みられてきたが、プレゼンテーションを除き、それはiPadの開発意図から少し外れる。マルチタスクやFlashを敢えて仕様から外したのは、iPadをメディア(それも家庭と学校の)として位置づけたからであった。したがって汎用タブレットはAndroidベースにならざるを得ないと考えていたが、QNXベースのPlayBookが有力な選択肢として登場することは喜ばしい。日本メーカーも、けっしてアップルやアマゾンのモデルだけが選択肢ではないことを考えていただきたい。(鎌田、09/28/2010)

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