米国のラップ・ミュージシャン、 Eminem の版権管理会社が原告となり、ユニバーサル・ミュージックに対して「ライセンス料の不足分」の支払いを求めて争っていた訴訟で、サンフランシスコの連邦控訴審は9月2日、一審判決を覆して原告勝訴の判決を下した。 iTunes を通じて消費者に提供していたものはライセンス(使用許諾)であってコンテンツじたいではないから、アーティスト側に支払うべきはロイヤルティ(販売に伴うもので20%あまり)ではなく、 CM や映画サントラでの使用に適用される50%である、というものである。確定すれば、影響はオンラインコンテンツ全体に及ぶ。(全文=♥会員)
“著作権”料紛争にさらに一石:米国連邦控訴審判決
オンライン・プラットフォームを通じて「販売」されるコンテンツの対価がいったい何であるかについて、これまで論争があった。製作会社、出版社からすれば、それはコンテンツを印刷物やCDやDVDにして売るのと変わることがない。しかし、ユーザーは基本的に(所有者なら可能であるはずの)任意の貸借や再販売が制限されている。結果的には販売ではなく貸借(リース)と同じということになる。エージェント (F.B.T. Productions)はそこを衝いた。今回の判決が確定すれば、iTunesでの販売分から差分の30%あまりを得る。アップル側が30%を得ていたとすれば、アーティストが獅子の分け前の50%を押さえ、ユニバーサルは20%しか残らないことになる。音楽産業のビジネスモデルに大きな影響を及ぼすことは間違いない。もちろん、出版にも及ぶ。音楽と活字。分野こそ違え、同じデジタルコンテンツで、E-Bookに関しても法的に同じ扱いがされるからだ。
3名の判事が合意した今回の判決が、最高裁で逆転する可能性は多くはない。しかし、先行判例がなく、影響が甚大であるところから、ユニバーサルは再審理を申し立てる意向を表明している。Eminem訴訟は、ダウンロード販売についての言及がない契約(1998年)についてのケースだった。WSJによれば、最近の契約では「ダウンロード販売」について事後の再交渉の余地を残している例が多いという。とりあえず、オンライン以前の過去の音源のダウンロードに関する再交渉が活発化するものと見られる。
コンテンツが「販売」されたものなら、所有者の権利は最大限に保証されなければならず、貸借や再販売、私的複製なども許されなければおかしい。「貸与」されたものならば、価格は(印刷物やDVDなどより)抑えられなければ理屈に合わない。問題は、どちらにせよ、製作会社にとって面白いものではないだろうということだ。複製コストが安くなったことで物理的な設備を持たなくてもよくなった反面、商品の性格が変わってしまい、同時に、製造リスクを負う製作者の権利を保証していた法的保護が危うくなっている。ロイヤルティとライセンスの区別について、ユーザーはこれまであまり気にすることはなかったが、上流側で問題化することは避けられないだろう。
Eminem判決について、米国の大手出版社は沈黙を守っているようだ。しかし、著作者側からの取り分増額要求は今後も強まる。対応は、とりあえず以下が考えられる。
- DL売上の25%をロイヤルティ(著作権料)として支払うのではなく、ライセンス(使用料)として支払い、増額は拒否する。
- 強い立場にある著者には40%前後まで増額を認め、他は(実績等)ケースバイケースでロイヤルティ/ライセンスを決める。
- 高い手数料を取るオンラインストアへの依存を減らし、自主販売を強化する。
(鎌田、10/05/2010)
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