B&Nの新製品NOOKcolorが米国で売れている。出荷台数は、1日に1万8,000台とも言われるが、$249という価格、タブレットリーダというカテゴリー初の製品化であることを考えると、この数字は「10月からの70日間で“数百万台”」というKindleと比べても遜色ないものと言える。多くのメディアや専門家のブログのテストでも推薦を得ることが出来た。2010年は「Kindle vs. iPad」で幕を開けたが、われわれの予想通り、マーケットの違いが鮮明になり、競合することはなかった。それに代わって「Kindle vs. NOOKcolor」が、年末に浮上してきたことになる。(全文=♥会員)
カラーLCDリーダとして初の成功:Kindleの真のライバルに
米国のクリスマス商戦の最大のポイントは、NOOKcolorがどれほどの完成度で登場し、どれだけ売れるかということだった。タブレット・スタイルのリーダとしては、iPadが筆頭にあげられるが、これは重量・価格・機能から言って、現在のコンテンツを読むには重すぎた。ほかにタブレットリーダがなかったわけではないが、一度iPadを見てしまうと、それらは「出来の悪いiPad」という印象を免れない。タブレット型読書端末というのは、新しいカテゴリーで、デザインが意外と難しいのである。電子ペーパー端末におけるKindleのような明確な目標はなく、iPadを目ざせば、それは汎用のタブレット・コンピュータになってしまい、さらにハードルは高くなる。
LCDカラーは、屋内で使う分にはけっして読みにくいものではない。しかし電子ペーパーに比べれば、屋外での視認性が悪く、充電間隔も短いので携帯性は制限されるから、少なくとも、ビデオを含むカラー・コンテンツ以外では分が悪い。価格も高くなる。したがって、成功するには、新聞や雑誌のようなWeb系コンテンツと児童書、教科書などの“ホームグラウンド”で優位を示し、“アウェイ”である白黒コンテンツでも善戦することが必要になる。初代Nookは、カラーLCDと電子ペーパーの混合だったが、LCD画面の反射が電子ペーパー部分の可読性を妨げるという悪評もあり、デバイスとしてはあまり成功したとは言えなかった。いろいろ工夫はしたが…という感じで、素人っぽさが残った。
NOOKcolorが注目されたのは、それがタブレットリーダというカテゴリを納得させるものであるかどうかだった。それにはデバイスとしての使い勝手のほかに、本を選び、購入して読むプロセスを、シンプルでありながら深みや味わいのあるものにできるかどうか、という難しい課題に挑戦しなければならない。後者はオンライン・サービスやビジネスモデルとのリンクが必要だが、デバイスの優位が一時的なものにしかならないとすれば、後者はシェアを安定させる上で必要と言える。タブレットリーダの場合、
- $250を切る価格(2011年中には$200~$150の水準になる!)
- 手に持って読める重量(iPadとKindleの中間)
- フルブラウザを動かして高速のカラー表示が可能
- スクリーンの反射防止などで電子ペーパーとの差を詰める
- 初期製品にありがちなバグを取り除いてあること
といったことをデバイスとしての条件とするならば、Kindleと匹敵し、あるいはそれを凌ぐユーザビリティを読書体験において保証できるかどうかは、UI/UXにおける条件であった。それはB&Nのオンラインストア、そしてリアル書店でのサービス機能(1時間の自由試読など)との滑らかなつながりなどが、読書環境としての訴求点となろう。NOOKcolorは、これらの条件をクリアし、「最初のタブレットリーダ」となった(iPadがそうならなかったのは、読書用には重すぎ、高すぎたからだ)。特筆されるのは、もちろんただの「カラーLCD」以上の価値を提供していることだ。ユーザーがダウンロードしたコンテンツはライブラリに収められるが、書籍、雑誌、新聞、専用棚(my shelves)、自分のファイル(my files)、および貸し本(LendMe)に分けられる。自分専用の棚は、お気に入りの本などをすぐに読めるようにしておくもので、これはKindleのCollection機能(ファイルフォルダ)よりはるかに優れたものと評価されている。
書店でのリアル体験に新たな可能性が見える
米国での各種試用レポートを見ると、B&Nストアで店の専用画面が立ち上がり、各種サービスに誘導するユニークなサービスが高く評価されている。「リアルの書店に足を向けさせること」が、書店としてのB&Nの重要な課題であったのだが、それは初代Nookでは十分に果たせていなかった。それにはある程度のサイズを持ったカラー・タッチスクリーンが必要だったと思われる。NOOKcolorは、たしかに書店でも使いやすいし、書店もPOP広告を出すことができる。これは書店員のモチベーションを高めるだろう。
日本で対応するものを探すとすると、さしあたってはGALAPAGOSとGalaxy Tabということになるだろう。しかし、どちらも価格的にE-Readerの中心価格帯(1.5~3万円)を外しており、不況下のガジェットとして(とくにスマートフォンと比較されると)苦しい。iPadでさえ日本では苦戦していることを考えると、デバイスとしての性能を持て余すことになる可能性が強い。また、B&Nやアマゾン、アップルのような、強力なオンラインストアとバンドルしていないだけに、ユーザー(E-Readerで本を読みたい人)の視点を反映させにくいという問題がある。ガジェットからのアプローチでは限界があるということだ。読書などという保守的・伝統的な情報行動では、とくに“ハイテック”より“ハイタッチ”要素が差別化要因になっていく。アマゾンのKindleがガジェット愛好家から馬鹿にされながら成功したのはそのためだ。リーダは簡単なものではないので、試行錯誤や熟成が必要だ。
NOOKcolorの「書店体験」はB&Nの発明だが、日本でも参考とすべきだと思われる。データは出ていないが、1時間の無料試読時間とコーヒーのサービスがあれば、愛書家が本屋に出かける価値はある。印刷書籍がその場にあれば、そちらのほうを選ぶこともあるだろう。端末を通じたワンストップ・サービスとしての完成度は確かに重要だが、それでは差別化にならない。とくに日本ではそうだ。書店やコーヒーショップ、フードサービスなどと提携したサービス、読書に関連したコミュニティをサポートする、読書SNSなど、“ハイタッチ”を開拓しなければ、日本のE-Bookは豊かなものとならない。 ◆ (鎌田、12/16/2010)