フランスの市場調査会社IDATEは12月9日、米国、日本、欧州を対象としたE-Book市場調査(2008-2015)を発表した。安くはないがTeleReadに要約が掲載されているので、これをもとに紹介しておこう。日米欧の三市場を対象とした調査はかなり貴重なもので、2010年にこれらの対象地域でE-Book市場がそれぞれ離陸したが、そのシナリオはかなり違ったものになった、とIDATEのレポートは述べている。紙からデジタルへの大規模な移行はあらゆるジャンルで起きるが、2014年以降、デジタルが(その付加価値によって)出版を牽引し、成長を回復させる。この見方は欧米の識者のコンセンサスになっていると思われる。
レポートは、2010年の米国市場を€5億9,400万(約642億円)、日本市場を€5億2,700万(約592億円)とし、初めて米国が「E-Bookのパイオニアであった」日本を上回った、とした。欧州は後発だが、それでも今年は80%の成長をとげ、来年以降はさらに急成長が見込まれている(米国の数字は、フォレスター社などの数字よりはかなり低いが、算定のベースは不明)。E-Bookの増加は、印刷書籍の長期的衰退に悩んできた出版産業の売上を下支えし、2014年までには成長を担うものとなる、とみている。E-Bookとは無関係に進行してきた印刷書籍市場の衰退は、E-Bookの増加によって相殺され、さらにデジタルの漸増効果によってむしろ成長に転じるというのである。出版ビジネスはゼロサムで「デジタルが増えても紙が減るだけ」と見る俗説を明確に否定した点に意義がある。デジタルには紙では不可能な付加価値を開拓できる。
2015年までの市場動向は2つのレベルで作用する諸要因によって決定される、とレポートは述べている。すなわち、(1)現在の読者層のデジタルメディアへの移行の進度、(2)新しい読者層を惹きつける拡張型E-Bookのインパクトである。これまでの市場は、もっぱら印刷書籍をデジタルに移行させただけで、読書家がE-Bookを読んでいる。市場も印刷書籍の出版社やそのビジネスモデルが主導している。
出版のバリューチェーンの力関係は変化している。著者とエージェントは出版社を迂回する方法を模索し、出版社はそれを押し止めようとしている。流通サイドでは、販売価格をめぐる緊張が生まれている。中間的存在は、伝統的書店のほかに、アグリゲータ、デバイスメーカー、Webビジネス、モバイル通信会社などますます複線化し、競争は激化している。その中で、アマゾン、アップル、Googleがそれぞれ別々のアプローチでグローバルな競争をリードしている。
去年までは日本が世界をリードしていたという実感はまるでないが、ケータイとマンガ、電子辞書というユニークなコンテンツ市場に依存しすぎたせいで、欧米のような読書家層にはまるで浸透できておらず、いわば鎖国時代の「出島」のような状態で市場が存在している。日本の読書家層は市場からほとんど無視されてきたせいで「自炊」などという奇妙な習俗が生まれたりした。IDATEのレポートは、コンテンツの中ではデジタルになじみやすいジャンルが出版産業を牽引すると見ている。マグロウヒルのラペル社長の指摘していることと通じる。筆者も同感だが、たとえば「ゲームE-Book」などは、おそらく(オンラインゲームで後れを取った)日本のゲーム産業にとっても大きなチャンスだ。◆ (鎌田、12/30/2010)
[…] This post was mentioned on Twitter by emuty, Hiroki Kamata. Hiroki Kamata said: フランスの調査会社IDATEは、米国、日本、欧州を対象としたE-Book市場調査(2008-2015)を発表した。014年以降、デジタルが(その付 […]