出版とソーシャルメディア#1:Copia (♥)

E-Bookの普及とともに、出版/読書体験の社会的側面に注目した新サービスやビジネスモデルが登場している。ソーシャルネットワーキング(SNS)は21世紀のWeb技術の重要なトレンドだが、E-BookとSNSの融合によって新しい価値を創造し、事業化しようというものだ。この動きには新規参入企業だけでなく、アマゾンのような巨大企業も、そして出版社も含まれる。もはやSNS抜きではE-Bookビジネスは不可能になりつつある。本誌では、様々なタイプのビジネスを紹介し、日本での展開の可能性を検討してみたい。[全文=会員]

出版/読書体験の広がりとソーシャルネットワーキング

「読む」という主体的な行為を必要とする本は、もともと社会的なものだ。そしてリアル/バーチャルな「場」を必要とする。18世紀の啓蒙思想はパリのカフェを舞台に生まれた。「読む」ということのコンテクストは、コンテンツを見つける、知る、聞く、話す、書く、共有する、読む…といった多様な情報行動で構成されるが、基本は「本から本へ」「人から人へ」の遷移であり、そうした読書体験を生み出す「場」がすべてデジタル環境でサポートできることがビジネスの前提となる。

著者や出版社は「次の1冊」を期待してくれる読者を繋ぎ止め、書店はより多くの本を買ってもらい、広告会社はモノやサービスの消費と結びつけ、研究者やプロフェッショナルは共通の課題に取組む人を見つけ、読者はストーリー展開を著者に注文し、アイデアを提供する、といった具合だ。<who><what><how>の中身を入れ替えれば、大小無数のバリエーションが生まれる。既存のビジネスに組合せることもできるし、あるいは営利的活動と区別することも、混在することもできる。個人の蔵書管理=共有のように、プライベートとソーシャルの境界にサービスを置くこともできる。写真やビデオを共有する時代に、本を共有したいと考えるのは自然である(著作権問題が関わることもあるが)。

E-Book+SNSのビジネス化の唯一最大の課題は、あまりに多様であり得るために拡散してしまう点だ。簡単すぎて難しいとでも言えようか。「場」をプラットフォームとするには、なんらかの<テーマ>を共有する<コミュニティ>が前提として必要になってくる。TwitterやFacebookのように自然発生性に期待するには競合が多すぎる。またビジネスモデルも複雑になる。一般的には、(1)本の販売と結びつける、(2)本以外の商品広告と結びつける、(3)課金制会員サービスにする、の3つが考えられるが、ソーシャルとビジネスの両立も単純にはいかない。

ソーシャル・リーディング環境はビジネスになるか

米国で11月22日、「ソーシャル・リーディング・プラットフォーム」を標榜するCopiaというサービスが立ち上がった。1年ほど前に、DMC Worldwide(ニューヨーク)がデバイス/ソフト/サービス/コンテンツを一貫させた環境として提供するモデルを打ち出しながら、デバイスを除く(=マルチ・デバイス))という路線に転換し、「電子読者のためのFacebook」を目ざす方向で再出発したものだ。CopiaのビジネスのベースはE-Bookの販売であり、現在約40万点の書籍と150万点の無料書籍を提供する環境を持っている(フォーマットはePUBとPDF)。Copiaのユーザーは、ハイライトや書き込み機能を使って本についての意見を共有したり、ブッククラブをつくることができる。ハイライトは人に見せることもできるので、読んでいてよく理解できない箇所について、他のユーザーの考えを聞ける。

Copiaは当初考えていたデバイスを断念し、どんなE-ReaderやモバイルデバイスでもCopia利用できるクラウド・プラットフォームにフォーカスした。まずデスクトップ、iPad/iPhone版を用意し、さらにAndroid、Windows 7その他のモバイル・プラットフォーム版も準備中という。Copiaにとっての問題は、KindleやNookのように、E-Book市場で大きなシェアを占める専用リーダへのアプリの展開が困難なことだ。これはHTML5やJavaScriptをサポートするWebブラウザを使うことで可能となるかもしれない。しかし当面はiPad中心のソーシャルリーディング環境ということになろう。Copiaのオンライン書店を利用せず、本についての情報を共有する環境としてだけ利用することもできる。またTwitter、Facebookと提携しており、それらを経由してCopiaのアカウントにサインインできる。

Copiaでは、書籍だけでなく、新聞、雑誌、音楽、ビデオも、このソーシャル・リーディング環境に加えたいと考えている。これは自然な展開で、すべてのメディアは本と結びつくから、「クロスメディア」の体験共有環境は必然だ。しかしインタフェースのデザインはますます難しくなる。

ソーシャル・リーディングはやがて何らかの形で定着するだろう。ミステリー・ファンや歴史小説ファンのように、特定のテーマや作家/作品をめぐるコミュニティ活動は昔から存在するし、彼らはすでにブログ、Twitter、Facebook、それにAmazon.comなどで情報を発信・共有している。それらをつなげ、包括する別の付加価値が期待されているので、そのニーズを埋めるサービスとビジネスモデルは必ず見つかると思われるからである。ただしCopiaがそれになり得るかというと、おそらく現在のままでは難しい。Copiaが方向を転換する可能性は十分にあるが、その際にも以下の点でユニークなものであることが要求されると思われる。

  • 既存のSNSサービスとの連携と「環境」としての一貫性
  • 出版社、著者、読者のサイト、ブログ、SNSサービスとの連携
  • ユーザーインタフェースとそれが提供するユーザ体験における洗練と最適化
  • クロスメディア体験とその共有のための「場」のデザイン
  • 広告モデル

(鎌田、12/24/2010)

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