50ドル端末時代にどう備えるか(♥)

E-Readerの価格低下と市場拡大のテンポが落ちずに続いている。米国のクリスマス商戦では中心的存在となり、価格はついに100ドルを切るまでになった。2011年末には50ドルまで行くと見られている。2007年11月に399ドルで登場してから3年で25%、4年で12.5%ということになる。印刷物でいえば、用紙と印刷・製本コストが劇的に下がることと同じで、来年以降は、書籍出版だけでなく、新聞や広告などを含めた、あらゆる出版に影響を及ぼすレベルに達し、その影響は顕在化してくるだろう。ここではデバイスの価格革命のインパクトについて検討してみたい。[全文=会員]

積極展開でトップシェアを目ざす台湾Netronix

台湾のエレクトロニクス専門メディアDigiTimes (12/01)は、E-ReaderのODMサプライヤーの一つNetronix社のアーサー・ルー総経理の、注目すべきインタビューを載せた。彼は2010年の同社の総出荷を74万台と見込むとともに、2011年には5倍以上の350~500万台を想定しているという。2010年の世界市場規模は1,000万台(うち米国が80%)で、価格低下が需要増と結びつき、2011年には3倍の3,000万台に達すると推定。また年末に6インチ電子ペーパー製品で100ドルを割った価格の下落はさらに進み、2011年末には50ドルを切ると考えている。同社の生産能力は月産20万台に達している。

Netronixは、前号で紹介したPocketBookなどにE-Readerを提供するほか、自社ブランド製品も販売している。2010年の74万台の大部分は、PocketBookによるものだ。目論見通りに行けば、2011年にはNetronix/PocketBookが世界の有力メーカーとして浮上することを意味する。もちろん異例の急成長である。しかしE-Readerはそうしたことが可能な市場なのであり、日本にも年間数100万台の潜在市場があることを認識すべきだろう。そしてE-Readerが普及するほどE-Bookは売りやすくなり、コンテンツへのニーズも高まり、用途も拡大し、市場は拡大する。

Netronixは台湾で1,950万ドル(約16億円)を投じてGreenBookというオンライン書店を立ち上げ、端末を30ドルとして、台湾、フランス、スペイン、中東、ロシアで販売することを計画している。自社ブランドは月1万台、2年で20万ユーザーが目標である。おそらくPocketBookがドイツを中心に展開するBookLandと重なるものと思われる。ルー総経理は、同社端末のODM価格を60ドルとしているのだが、すると30ドルのディスカウントはGreenBookの販促費ということになる。書店の売上によって回収できると見ているのだろう。

リーダの価格低下により、こうしたバンドル販売は、さらに広がる。業界最低の価格水準を基本としているアマゾンやB&Nも、こうした方法で、価格をさらに下げ、最終的には無償提供に近づく。電話会社が端末を無償で提供するようなものだ。自社内で共助関係を完結できないベンダーは、パートナーを探すか、ニッチな機能やサービスを背景にした付加価値端末を志向することになろう。(左の図は、米国市場におけるE-Readerの価格と消費者の購買意欲の関係を調査したフォレスター社の2009年のデータ)

価格の低下が加速しているのは、成熟期に入った電子ペーパー・ディスプレイの増産によるコスト低下のほか、ソフトウェア/システムをワンチップに実装するSoC技術の導入によって、画面や通信の制御機能の高度化と実装の短期化が可能になっているからである。つまり限られた市場での過当競争による採算割れではなく、技術革新による低価格化と、低価格化が促す市場拡大という理想的な循環が、しばらくは続くということなのである。

ごく単純化すると、ITにおいて、ソフトウェアはサービスの論理的実装、ハードウェアはソフトウェアの物理的実装、そして半導体はハードウェアの複製という(まるで出版のような)関係が成り立つのだが、SoCによるアプリケーション・プロセッサはサービスロジックとハードウェアのワンチップ化という意味で、デジタルプロセスの完成された姿を示している。アップルやアマゾンが工場を持たない「メーカー」として君臨できるのも、SoC技術を実用化したことが大きい。ちなみにかつてシステムLSIで世界をリードした日本メーカーは、このフルデジタル化で躓き、まだ再起していない。

価格革命の進行で必要になる先取り思考

価格革命は世界的現象であり、日本でも不可避である。アマゾンに加えて、世界市場に製品を供給する中国・台湾メーカーのODM製品が、日本語フォントを搭載して直接流入することになれば、汎用的な文具としての“モバイル電子ペーパー”の普及が始まり、ビジネス応用が進むので、E-Book端末という特別な存在ではなくなるからである。中国やインドで普及可能な価格をターゲットとして開発・製造されているだけに、日本市場のスケールで量ることはできない。大航海時代に始まる価格革命が「世界経済」を形成したように、低価格リーダは情報における価格革命と世界市場の再編につながる可能性が強い。

この低価格化によって、様々な用途のサービス機能を提供するリーダの開発が進む。ビジネス・ステーショナリーとなるA4サイズ製品、マニュアル用製品、新聞・雑誌・カタログに使用されるカラー・グラフィック表示用製品から、出版物の内容に合わせた、テキスト用、各種技術者用、童話・絵本用、外国語学習用、旅行用まで、数千円から数万円のレンジで登場するだろう。企業はサービスとコンテンツを自社仕様の端末で提供することを検討するようになる。すでにiPadなどのタブレットで開発されている機能は、低価格製品で実現されるようになるだろう。

日本のE-Reader市場は始まったばかりだが、グローバルな低価格化によるこの媒体革命の津波のような進行によって大きな影響を受けることは間違いない。メーカーとしては、マスマーケットよりセグメント化されたユーザーに対する付加価値を継続的に追求していかないと生き残れない。以下の3点が鍵になると思われる。

  • 世界市場に合わせた積極的価格政策
  • パートナー探しと付加価値サービスの開発
  • フォント、組版などローカル機能のファームウェア

出版社にとっては、E-Bookの販路が一挙に拡大することになるので、新市場におけるブランドの確立を急ぎ、コンテンツの生産と供給体制だけでなく、ソーシャルメディアの確立、マーケティング技法の開発、パートナーの開拓を進めていくことが課題となる。端末が普及すれば必然的にコンテンツの価格もE-Bookに最適化したもの、市場拡大を先取りしたものが要求される。読者へのアクセス手段の大規模な再編は“千載一遇”の好機だが、ビジネスモデルを確立した企業による業界再編の引き金となり淘汰が進む可能性も高い。 (鎌田、12/02/2010)

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