出版とソーシャルメディア#2:本か人か (♥)

前回はオンラインショップをベースに、ソーシャルメディアを結びつけたCopiaを紹介した。E-Book+SNSのタイトな結合を目ざすのは、アプローチとして正統的なものだろう。それだけに、アマゾンやB&Nなどのメージャーが同等なものをそれ以上のスケールで提供した場合に生き残れるかという問題が残る。それに対して、本との結合を緩くして、逆にヒト(SNS)にフォーカスしたのがLibraryThingMendeleyである。いずれもパーソナル図書管理サービスをベースとしている。 [全文=会員]

ベースはオンライン図書管理サービス

自分のための図書管理をやってみたいという人は少なくないだろう。昔の日本語ワープロにも図書管理データベースが付いていたものがあった。しかし、データが特定のアプリケーションやパソコンに制約されてしまうと、データの入力が億劫になり、しだいに使わなくなってしまう。つまりこういうことは本質的にWebアプリケーション向きだということだろう。これならどこでも自分の蔵書や買い物リストをチェックできる。パーソナル図書管理は、しかしたんなるユーティリティでは終わらない。ソーシャルなコミュニケーションを媒介することで、ビジネスのプラットフォームとなり得るからだ。

本じたいが知識情報のネットワーク上のノードであり、それを必要とする人も社会的ネットワークを持っている。そうしたコンテクストは、さしあたって関連した本を売るために役立つだろう(本→本、人→本)。しかし、なにも本だけがすべてではない。あらゆる商品はつねに買い手を探している。コンテクストがうまくつながれば購買行動につながるわけで、Webマーケティングでは価値のあるコンテクストを探している。

  • 本はテーマと著者、それらと関連する人・モノ・時代とのコンテクストの上に存在する。
  • テーマにアクセスする人の興味・関心・仕事などのコンテクストが浮かび上がる。
  • 広告のトリガーとなり得るコンテクストを発見できれば、商業的価値が生まれる。

本が先かコミュニティが先か:LibraryThingとMendeley

日本語でも利用できるLibraryThing(メイン州ポートランド市)は、2006年に創業。"social cataloging website"(世界最大の愛書家コミュニティサイト)と称する、個人用のオンライン図書目録サービスだが、そこから進んで、個人のコレクションのカタログを他のメンバーと結びつけることができる。特定のテーマ(...Thing)についての本のカタログを集めて共有し、中身についてコミュニケーションを行う。テーマが一風変わったものほど、同好の士と知り合える楽しみも大きいだろう。同じ本が好きな人間は、他の本についても好みが一致する可能性が高いからだ。執筆時点(2010年12月末)で、LibraryThingは全世界に125万人あまりの会員を持ち、登録冊数(延べ)5,837万冊以上、作品数583.6万点、レビュー数125.7万、グループ数7,078などと公表されている。無料提供本もかなり多く、書評用が6.7万冊、メンバー提供本も1.9万冊あまりある。

Mendeley(ロンドン/ニューヨーク)は、200万ドルの資金を得て2008年に英国で創業した。すでに世界最大のオンライン論文データベースに成長している。こうしたサービスが民間ベースで生まれたことに注目したい。文献データベースが進んだジャーナルの世界でニッチを発見したわけである。支援者にはSkypeの創業者のほか、大学や公的機関も含まれている。2009年にはTechCrunch Europeの「ベストソーシャル・イノベーション」を受賞している。

機能としてはLibraryThingとよく似ているが、学術論文を対象とするので他とはかなり違ったコミュニケーションとコミュニティが生まれる。つまり、学者・研究者のための参照文献管理サービスで、それによって知的なニッチを形成することになる。論文と引用と被引用の関係はアカデミックな世界では最も重視される研究活動のトラックレコードで、論文とその被引用数は、実際に学者としての評価の指標として使われている。だから、参照文献管理は彼ら(あるいはそのアシスタント)にとって手間はかかるものの、抜くわけにはいかない。だからオンラインサービスは必ず関係者によって歓迎される。

個々のジャーナルの主体である学会は、当然ながら個別のテーマに偏り、研究者自身のアプローチをカバーするものではない。それに学会のサイトにおけるソーシャルネットワークのサポートは、進んだものと遅れたものがまちまちで、ログインやUIもバラバラなので使いにくい。Mendeleyは学際的、国際的なデータベースとして発展していくだろう。(下の画面はMendeley)

LibraryThingとMendeleyは、それぞれ別の入口から「ソーシャル」にアプローチした。ユーザー体験としては大きく異なる。上述したように、本(ドキュメント)と人は、それぞれネットワークのノードとして存在しており、それが交錯するところで静的/動的なコミュニケーションが生まれ、それが次のアクティビティと結びつく。入口と出口は1対1では対応せず、コンテクストから「意味」を取りだすシステムの設計と管理は難しくなるだろう。今回紹介した両社の場合は、入口を明確にしたことで成功したように思われる。  (鎌田、12/30/2010)

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