電子雑誌をめぐるアップルとGoogle (♥)

電子雑誌をめぐるアップルとGoogleの攻防が激しさを増している。前号でご紹介したように、まだビジネスとして成立していない段階だが、巨大(メタ)メディアとして普及が約束されたiPadやAndroidタブレットが、数千万の読者と広告を呼び込む雑誌出版社を引き込もうと動いているためだ。しかし、雑誌出版社にとって広告(=個人情報)ビジネスを重視するプラットフォーム企業との共存は、少なくともバーゲニングパワーを持たないと成り立たないと考える筆者は、独自プラットフォームという第三の選択を提唱する。[全文=会員]

米国雑誌ビジネスとメディアとしてのタブレット

メディアビジネスにとってタブレットとは、第1に新聞・雑誌、第2に拡張E-Bookのデバイスということになる。前号でiPad雑誌が多いに苦戦していることをお伝えしたが、タブレットの重要性は変わらない。というのも、Webの影響で広告依存の紙媒体は大きなダメージを受けており、E-Readerを得ることで有償コンテンツとして成功した書籍のように、Webから半独立したデバイス環境への移行が成功しないと、ビジネスとして急速な衰退を余儀なくされるからである。広告印刷物は部数の減少に堪えられず、時間はあまりない。焦る出版社に対して強気の姿勢を崩さなかったアップルだが、Googleが対抗勢力として登場することで配信プラットフォーム間の競争が始まった。

最初に、日本とはかなり違う米国の商業雑誌事情について整理しておこう。米国の雑誌は、出版社が読者のプロファイルを把握している定期購読/郵送が中心。価格は非常に安く、年間購読料もゼロから10ドル台が多い。完全に広告に依存したビジネスという意味で、書籍よりはTVに近いかも知れない。出版社は膨大な販促費をかけ、購読者リストとプロファイルを維持・管理することで広告主のダイレクト・マーケティングを支援する。つまり、印刷物でありながら地域や所得、嗜好などに応じた広告配信が可能なメディアとなっている。発行部数は平均的に多く、筆者が20年前に聞いた話では、15万部を下回れば媒体価値はほとんどなくなると言われていた(発行部数、購読者数のごまかしは犯罪になる)。広告出稿企業は効果の測定に厳密なので、日本と比べると非常に精緻に出来ている。つまり、雑誌とは何よりも広告メディアだということだ。

次に、多くの有力雑誌は、コンデ・ナストやハースト、タイム・ワーナー、アシェットなど、数十もの雑誌を有する大手出版グループの傘下に入っている。これは、制作や資材調達、広告マーケティング、ロジスティクスの(生産・流通)プラットフォームを共有しないと媒体間の競争に生き残れないことを意味している。製作環境の電子化は1980年代から取組まれており、記事データベースと電子組版、広告管理なども、すべて自前で行われている。デジタル化への対応は、日本の出版社よりも2世代は進んでいる。

以上から、大手雑誌グループにとってタブレットを使う上での問題が、コンテンツの電子化よりも課金よりも広告であることはご理解いただけたろうと思う。百万人の読者を持つ雑誌を維持することで、1ページ数万ドル、100ページ数百万ドルの広告収入が得られ、それだけで高い品質を維持できる。すべては読者プロファイルの保有・管理によって成立しているといっていい。これに対して、デジタル雑誌は、

  • 購読者データがアップルのようなオンライン・メガストアに蓄積し、空洞化する
  • 読者が印刷版から電子版に移行すれば、印刷版の1部あたりコストが相対的に増加する

という点で、そのままでは成立不能であり、従来のように購読者データを維持管理できないと雑誌というビジネスモデルは崩壊する。日本の雑誌は大部分が取次・書店に依存する間接販売だが、それとは逆の状況だ。マーケティングが極度に発達しているので、部数だけでは広告がとれない。

プレデターとしてのアップル対Google

出版社がアップルiPadに期待したのは、デバイスとしての魅力もさることながら、(1)アマゾンの独占状態を破り、(2)価格決定権を取戻し、(3)配信=流通マージンを引下げるというものだった。現実には、(1)購読者データを管理され、(2)直接定期購読制が否定され、(3)情報内容の検閲まで課されてしまったわけで、出版社はたんに販売不振というだけでなく、現状ではビジネスモデルとして成り立たないという二重の失望を味わったことになる。
iPad_adAndroidスマートフォンとタブレットで勢いに乗るGoogleが、アップルと出版社の間の溝に突け込むのはきわめて自然だ。Wall Sreet Journal (WSJ)1月2日付、ラッセル・アダムス/ジェシカ・ヴァスケラーロ記者の署名記事は、GoogleのDigital Newsstand(以下GDN)が割り込んできたことを伝えている。出版社の関係者によると、GDNの詳細や立上げの時期はまだ定かでない。しかし、(1)アップルの30%に対して配信料を下げる、(2)読者データの一部を共有して雑誌側によるマーケティングを可能にすることが中心となることは間違いない。前者ではどこまで下げられるか、後者ではどこまで提供するかという条件交渉となる。

その点ではアップルとの交渉も続いている。アップルは出版社の不満に答えてiTunesで定期購読の受付を容易にし、しかし30%は維持する意向だ。それによって出版社は長期購読割引を提供し、読者は定期的にストアで買い物する必要はなくなる。また、情報の一部も共有する姿勢を示している。WSJによると、同意した購読者の情報の一部(氏名とメールアドレス)を提供してもよいと考えているようだ。しかし、同意する読者が少なければ出版社の得るものは少ない。また名前とメールアドレスだけではマーケティングに必要なプロファイルには十分でない。印刷物に高額の広告料を払ってきた広告出稿企業はとうてい満足しないだろう。アップルと出版社との交渉は数ヵ月も続いており、近くいくつかの出版社との間で妥結するもようだが、それが解決を意味するものとはならないだろう。

出版にとって第三の選択はあるか?:独自のITプラットフォーム!?

アップルもGoogleも、雑誌ビジネスが広告ビジネスであることに注目し、自身が広告配信企業となることを目論んでいる。モバイル広告は従来のWeb広告よりはるかに巨大なものとなることが確実視されており、マイクロソフトも含めて、IT企業はITサービスに満足せず、必ず広告モデルと結びつけようとしているからだ。印刷雑誌では制作・広告・流通はすべて出版社がコントロールしていたのだが、デジタル雑誌では、クラウドとデバイス(とくにOS)がボトルネックとなって、アップル、アマゾン、Google (AAG)という、肉食型のパートナーと付き合わされる形となっている。AAGがそれぞれの決済サービスを持ち、読者を管理するとすれば、出版社はたんなるコンテンツ共有者でしかなくなる。つまり企業としての独立性、継続性は危ういということだろう。

かつてSkiffという共同配信プラットフォーム+デバイスが構想されたことがあったが、競合する出版社間の調整が難しく、計画はキャンセルされた。出版社が大手広告代理店にマーケティングを依存する(つまり書籍における取次と同じ構造を有する)日本では実現する可能性もあるが、自由競争から独占への距離が近い米国では、呉越同舟は成立しないことが明らかになっている。新聞でもひと昔ほど前に企画されたが失敗し、結局新聞はビジネス的に衰退の速度を速めている。では第三の道はあるだろうか。タブレット・デバイスが安価になり、クラウドサービスも高度化することによって、それは可能となる。その場合、

  1. 雑誌出版社が独自の製作/マーケティング・プラットフォームを持つ、
  2. 広告モデルをとらないITサービス・プラットフォームを利用する
  3. 上記を組合せる

ということだろう。マードック氏のニューズ社など大手出版社は独自にプラットフォームを構築したほうがいいし、それはオンラインメガストアに支払う最高30%の手数料で容易に回収できてしまう。オンライン・マーケティングの能力は、出版者独自に育てることができるし、それによって広告主と読者にとっても好ましい競争が行われる。アマゾンのように、デバイスからクラウドまで自社で構築してもいいし、B&NのNookなど、広告への関心を示していない企業とデバイス環境を活用する方法もあるだろう。

筆者としては、3年かけて独自プラットフォームを構築し、アップルやアマゾンは最低限、実験環境として使えばよいと考えている。恥ずかしながら、EB2 Magazineも最低のコストで独自の環境をつくろうと目論んでいる。 (01/06/2010)

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