米国出版協会(AAP)の11月の出荷統計(大手14社の卸販売額)のうち、E-Bookの分が発表された。売上総額は129.7%増の4,660万ドル。2010年の11ヵ月分の対前年比(165.6%増)を下回ったが、10月の数字(112.4%増、4,070万ドル)は上回った。(上述の数字は、AAPのレポートを前にPublishers Weekly (1/14)が報じたもので、詳細は載っていない。以下は、とりあえずの「速報」を受けてのコメントだが、AAPはその後全体を公表した。)
構成比10%を達成し、伸び続けるE-Book。問題は印刷書籍市場の減衰速度
12月8日発表の10月度の数字は、7月以降の停滞を示していたが、久々に月次ベースでの二桁増を記録した。Kindle 3などの効果が反映されたものとみられるが、12月はKindle、B&Nともに記録的なセールスを記録したとされているので、12月の数字は少なくとも6千万ドルを超え、Q4は1.5憶ドル以上で終えることになろう。すると10月までで構成比8.7%だった「デジタル比率」は、ほぼ10%という歴史的な水準で終えることになるだろう。
ではQ1以降はどうなるか。Kindleが登場した2007年12月以降、E-Bookの出荷はQ1に急伸する傾向があり、2008年以降の対前期比は、36.6%、53.6%、62.8%と急伸してきた。2010年Q4のE-Readerの出荷からみて、今年のQ1も50%を超える可能性が強い。Q2以降で減速し、少なくとも初期の急成長期は終わる、というのが筆者の予想だが、それでも11年中は大きく減速することなく、前年比で2倍程度は達成するだろう。問題は、印刷書籍の減少傾向が、(1)加速するのか、(2)止まるのか、(3)過去10年間の傾向を維持するのか、ということで、これは日本の出版社の動きにも影響を与えると見られる。 今年のQ1はE-Bookの構成比が10%を超えるので、この問題の帰趨が見えてくるかもしれない。 (ここまで=01/15/2011)
ハードカバーは好調だがペーパーバックは…
印刷本についての数字をGalleyCatが伝えている(1/14)。総御売上は、比較的好調だった小売業全体の傾向を反映して、前年同月比5.1%上昇し、8億5,100万ドル。11月までの通算でも3.5%と、デジタルの嵐が吹き荒れた2010年が出版界にとって悪くない年であったことが明確になった。しかし、当然ながら内容にはバラつきがある。成年向けペーパーバックは19%ダウンで8,080万ドル。1~11月通算では1.4%減少。子供・若者向けは2.7%ダウンで、ペーパーバックは5.5%落ちた。成年向けハードカバーは4.3%増で2億1,990万ドルとなったものの1~11月通算では6.1%ダウン。成年向け量販本は9.5%減の4,770万ドル。通算で14.0%減。
上記の記述には高等教育系や専門書籍が含まれていない(1/20追記→高等教育向けは29.4%と急伸し、通算でも11.6%増となった)。全体として印刷書籍の退潮には歯止めがかからない一方で、売上構成比を高めたE-Bookがそれをカバーしそうな兆候を示したと言えるかもしれない。構成比の最も大きい(25.8%)ハードカバーの一時的好調が11月の売上増に最も貢献したことは確かだが、12月も含めれば、成長力の大きいE-Bookが出版市場を支える傾向はより明確になると思われる。印刷本との関係でみれば、ペーパーバックがE-Bookの影響を受けている可能性が強くなった。じっさい、いくつかの出版社ではペーパーバックをE-Bookに切り替えるところも出てきている。かつてのハードカバー→ペーパーバックという流れから、ハードカバー→E-Bookという形に移行しつつあるのかもしれない。
AAPの数字は大手14社の卸出荷額だが、米国政府統計局が書店の販売額を月次で提供している。これによると、11月は5.3%上がって10億9,000万ドルとなった。AAPの発表した5.1%よりやや多い。これは主にB&Nが店頭で販売したNookの売上を含まれている。11ヵ月通算では、なお1.9%減の144億1,000万ドル。12月の数字によっては、ほぼ横ばい水準にまで改善する可能性はある。 ◆ (追記=01/17/2011)
[…] This post was mentioned on Twitter by 市岡 正朗, Hiroki Kamata. Hiroki Kamata said: 米国出版業界の11月のデータが発表され、2010年が全体として回復の年になることがはっきりした。デジタルの嵐は出版 […]