出版を目ざす著者たち(1):著者の独立宣言

米国で有名著者による自主出版が続いている。ビジネス本のセス・ゴディン氏はアマゾンと協力して構築中のDomino Projectから新著(Poke the Box)のリリースを計画。ミステリー本のアリサ・ヴァルデス氏(写真右)も新著を単独で出版すると発表した。100万部を売った実績がある著者とロングセラー本の存在は、伝統的に大手出版社のビジネスモデルの前提となってきたが、ここでも「終りの始まり」が見られる。Domino Projectは、ゴディン氏のアイディアを具現化したもので、著者と読者を近づけた新しい出版プラットフォームを志向している。ビジネスモデルの再構築に必要な時間はあまりない。

出版社との確執、ファンの支持、代替手段…

アリサ・ヴァルデス氏は、2月7日付のPublishers Perspectiveに寄稿して出版社との齟齬の経緯を綴っている。彼女の場合は、出版に関して出版社の意向と一致しない場合の対応ということだ。彼女はDirty Girls Social Clubという2巻本のシリーズをさらに続けたかったのだが、版元のセントマーティンズ・プレスでは、ミステリー連作に関するポリシーから、それを望まなかった。彼女は「続き」を読みたい熱烈なファンを持っていたこともあって、ついに自主出版で出すことに決めたのだった。「大出版社は、私の読者が望むことを私が知っていることを信じようとしなかった。」と怒りをぶちまけている。

編集者は彼女の母親が中心になり、ファンも手伝ってくれた。カバーデザインもストックフォトを使って満足なものを用意することが出来た。もちろん、パブリシティはブログやSNS、メールリストなどを使って行っている。シリーズ第3作を出す前に、彼女はAll That Glittersという小説を自主出版してみた。フォーマットやアップロードは驚くほど簡単だった。「1週間もたたずに、従来の出版社からの本と品質において遜色ない本を出版して売上のほとんどを手にする方法を自修できた。」と彼女は書いている。Dirty Girlsの新作Saints of Dirty Faithは5月に刊行されるが、我流のプロモーションは2月1日に開始した。おそらくこの次作の成否によって彼女の今後の作家活動は大きく影響されるだろう。現在、ハーパーコリンズ社との間で3冊の契約がある。しかしそれは彼女だけの話ではないだろう。

有名作家の場合、(1)名声が確立し、固定ファンがいる、(2)「自分の読者」に何を書きたいかを自分で決めたい、という自我が強い、(3)親しい編集者やデザイナー、エージェントが身近にいるといった「特殊」な事情がある。出版社が(そのブランド以外の)何を提供できるのかが問われるわけだ。少なくとも、印税の上昇は避けられない。作家のテリル・リー・ランクフォードは、E-Bookの出版に関する出版社からの提案を蹴った経緯を綴っている。米国の場合は「前渡金」を積むことで「低い」印税率を納得させてきたのだが、「そんなものは駆け出しの作家でもなければ有難がらない」と彼は断じ、こんなやり方を続けるようでは出版社は「消えてなくなるしかない」と息巻いている。なお、同様の考えを持っている有名作家には、ほかにジョー・コンラスなどもおり、ブログで発売部数のデータも公表している。

出版社には出版社の、著者には著者の、読者には読者のニーズと制約がある。有名無名を問わず、出版社と著者とのトラブルは昔から日常茶飯事だ。しかし出版は出版社の「専権事項」で、著者には版元を変えるしかなかった。しかし、いまや著者には自主出版という選択肢がある。出版社をつくるのもそう難しいことではない。むしろ税金対策にもなるかもしれない。E-Bookだけでなく、印刷本にしてオンライン販売することもできる。市場が整備された米国では、著者の独立が続くだろう。鍵は、読者にアクセスできるチャネルを持てるかどうかだ。そこで、そのためのプラットフォームを構築しようとしている、セス・ゴディン氏とアマゾンのプロジェクトをとりあげてみたい(この記事は会員向けとなります)。  (鎌田、02/10/2011)

参考記事

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  1. […] This post was mentioned on Twitter by toshi_t, Hiroki Kamata. Hiroki Kamata said: 米国では有名作家による自主出版への「脱出」が続く。出版社との食い違い、印税への不満…。ブログで読者とのホットラ […]

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