出版を目ざす著者(2):プラットフォーム化 (♥)

ほとんどの人は出版を「本をつくって、店頭に出す」ことと考えている。それはデジタル時代になっても容易には変わらない。数百年続いた伝統的なプロセスでは、著者も、読者もプロセスの外にいたからだ。しかし、ビジネス書で数々のヒットを送ってきたセス・ゴディン氏は、出版を著者と読者(社会)のコミュニケーションと考え、そのためのプラットフォームを構築し、実験する。アマゾンと共同で。もしかすると、これは有名作家の流出に続く、出版社(の常識)にとっての致命的打撃となるかも知れない。[全文=会員]

出版とはコミュニケーション、本はその手段である

昨年「もういままでのような形で本を出すことはない」と宣言したセス・ゴディン氏のDomino Project (Powered by Amazon)は、個々の作家による自主出版とは少し性格が異なる。経営の専門家で起業家でもあるゴディン氏は、デジタル時代の出版の歴史的変化に主体的に関わりたいという意思からこのプロジェクトを起こした。パートナーはアマゾンだ。その意図を、彼は次のように述べている

  • ミドルマンの役割が小さくなる時代の本のつくり方を再発明する。
  • 読者層(tribes)が分かっていて内容にも理解がある場合の本の売り方を再発明する。
  • 代替手段がいくらでも得られる場合の本の読まれ方を再発明する。
  • 素晴らしいアイデアと著者を発見し、その力を合わせて、彼らを必要としている読者に引き合わせる。

Domino Projectは、コンテンツの製作と販売よりも知識情報のコミュニケーションと社会化を重視している。本は重要なアイデアを人から人へ普及させる上でなお理想的なツールだが、それが真価を発揮するためにはソーシャルネットワーキングと結びつく必要があると考え、また21世紀の出版ビジネスモデルはそこから生まれると考えている。

従来の商業出版の基本原理は、次のような問題を持っている、とゴディン氏は言う。

  1. 書棚を持つミドルマン(書店)が最も強い力を持つ。スペースはつねに不足している。
  2. 読者は出版社にも著者にも知られておらず、固定読者を持つ著者も、直接読者とコンタクトすることが出来ないために、毎回ゼロから始める必要がある。
  3. 価格と商品は固定的。コンセプトが生まれてから本になるまでが氷河のように鈍いシステムは、出版社にも読者にも利益にならない。
  4. 本の中のアイデアは、推薦によって人から人に伝わるが、その動きには制約が大きい。連鎖は緩慢に生まれ、しかも壊れやすい。アイデアの伝播という究極の目標のために、現在のシステムを見直す必要がある。

Domino Projectはこうした問題を孕んだ出版ビジネス基盤を(少なくとも例を示すことにより)再配置することを目ざしている。

  1. 棚が無限である以上ミドルマンはいない。出版社は、読者が何をどのように読むかについてコントロールする手段を得る。アマゾンのプラットフォームを使えば、小規模な出版社でも在庫リスクを負わずにグローバルな読者の目にふれさせることができる。私が次の本の着想を得れば、あとはアマゾンが印刷、配本を行い、読者につないでくれる。
  2. 読者は出版社と著者とに緊密に結びついている。たとえば、私が書いたり薦めたりしたことを気に入ってくれれば、ここに登録して新しい仕事についての情報を受け取ることができる。無料のサンプルなどを受取って、生まれたばかりのアイデアに目を配ることが出来る。
  3. 価格はボリュームとタイミング、フォーマットによって異なる。DominoではNew York Timesベストセラーを追う出版社のルールには従わず、読者体験と本を重視した方法をとる。(具体的なことは別に発表される)。
  4. デジタル商品や本の形をとったマニフェストは、複雑なアイデアの普及を容易にしている。これまでブログの読者が本の読者の100倍にもなりながら、本のようにニュアンスを伝えられないことにフラストレーションを感じていたが、Dominoでは新しい伝播(virality)モデルを提示する。著者が直接、書いている事柄についてのアイデアを使うことができる人々に接触するのだ。

ドミノ現象は起きるか?

ドミノの名は、もちろん「ドミノ効果」を期待してのものだ。ゴディン氏はこのアイデアを1986年に最初の本を出して以来温めてきた。期待を集める次回作は、まだ執筆中だが、進行はブログを通じて発表され、形が出来ればプレビューを行うという。アマゾンによると、近刊のPoke the Boxは3月1日にアマゾンからリリースされる(著者による解説ビデオはこちら)。価格はハードカバーとKindle版が$9.99。ほかにハードカバーのデラックス版が$75.00、オーディオ版が$10.19で出るとのことで、何か仕掛けがあるのかもしれない。

Dominoが最初からドミノ効果を発揮し、つまりゴディン氏以外にも同様のプラットフォームが広がるかどうかは定かではない。しかし、少なくともこれは筆者自身がEBook2.0 Forumで構想してきたことと同じだ。ほかにも同じ考えを持つ方は多いだろう。コンセプトは多くの人に共有される。しかし、一般化できる(ドミノ効果を持つ)かどうかは疑問だ。つまり10冊以上も売れる本を出し、書けば必ず書評に取り上げられ、期待を裏切ることの少なかった実績のある著者は「出版者」として自立できるが、そうではない多数の著者たちはどうなのか、ということだ。

また、書店を不要なミドルマンとする発想にも賛同しかねる。ゴディン氏の場合はアマゾンさえついていればよいとしても、その他大勢の著者たちはそうではないだろう。日本ではほとんどの書店が、事実上大手取次のチェーン店であって多様性に乏しい。アマゾンが市場の過半を押さえた時にも同じことは起きると思う。棚の物理的スペースの問題ではなく、システムの問題だ。本に関わるミドルマンは必要だし、それも個性の強いミドルマンが多いほどよい、と筆者は考えている。それにしても、著者たちが独立する傾向が強まるのは必然である。ブログやTwitter、Facebookで読者にリーチする手段を得た著者は、アマゾンと結びつくことで出版社に対する「優位」を自覚し始めた。出版社は著者と読者に対して価値を提供できる存在であることを自ら証明する以外にない。そのための時間もあまりない。  (鎌田、02/10/2011)

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