E-Bookの適正価格が分かった!? (♥)

同じく本ではあっても、 E-Book と印刷本は本質的に異質な商品だ。同じ音楽を扱っていても、イベント、CD、ダウンロードが異質であるように、E-Bookと P-Book では商品特性が違いすぎる。そこで問題は、印刷本を絶対的基準としている現在の E-Book の標準的価格設定は全くの見当違いではないかということだ。そのことは、(1)E-Bookネイティブな本におけるケース、(2)有名著者が複数の形態で出したケース、(3)一般商品の価格設定で使われる価格感度の分析などから、かなり具体的に明らかになってくる。これはE-Bookの場合、コストが一定なので単純に「売上最大化」だけを考えればよいためだ。そこから、E-BookとP-Bookの斬新な組合せ方の試行も始まっている。[全文=会員]

米国で月10万部を売るベストセラー・インディー作家誕生

アマゾンやB&Nが自主出版支援に本腰を入れてから2年もたたないが、着実にビジネスとして成長している。その指標となるのは、やはり“E-Bookネイティブ”な新進作家の登場だろう。最近脚光を浴びたのは、アマンダ・ホッキング氏(26=写真左)。これまで9冊を自力で出版し、月間10万部を売っている。1冊3ドルの価格で、Kindleストアで売れば70%が収入になるので月21万ドルということになる(アマゾンのサービスで、著者は最新の販売データを知ることが出来る)。もちろん、彼女にこれほどの条件を約束する出版社は存在しない。

これまで何人もの名の通った著者がKindle書き下ろしを試して成果をアピールしているが、いかんせん、「××だから何も不思議ではない」と片付けられてきた。出版というものは「名前」が最重要な要素なので、大手から出せばそれだけの「保証」となり、もちろんそれなりの販促費が計上され、メディアの書評でも無視されないから、中身がいまいちでもそう大きな失敗はない。逆に、新人はリスクが大きいので、大手出版社が売りだすためには「新人賞」を販促手段とすることも必要となる。

ホッキング氏の場合は、既成出版社で名を知られていたことはなく、まったくの自力で月10万部という偉業を達成したのだから、本人を褒めると同時に、WebとE-Bookの結びつきが出版を変えることを実証したことを認めざるを得ないだろう。その意義ははかりしれない。Smashwordsのマーク・コーカー氏の予言通りだ。このトレンドを既成出版社も受け止めようとしている。大手出版社は「自主出版レーベル」を用意し始めた。ハーパーコリンズ社のエイヴォンは、Avon Impulseという恋愛小説のE-Book部門を新設した。最初の1冊はベテランのキャサリーン・アッシュ氏の作品だが、新人が続くことを想定している。ただし「最初の1万部までは売上の25%、それ以降は50%」と、条件はあまり魅力的ではない。

エイヴォンのような既成出版社が扱う場合は、必ず査読を行い、むやみに受け容れるわけではない。出版社の基準に叶ったものを受けつける。編集、デザイン、マーケティングなどのスタッフも関わるので、通常の出版よりは低コスト、低リスクではあるものの、出版社は読者に品質を保証しなければならないので、著者印税が通常と変わらないのは当然だろう。これは正確には自主出版の範疇ではないのかもしれない。ともかく、完全な自主出版(法律に触れないものは何でも出せる)から通常の出版条件と同じで審査が緩いものまで、バリエーションが揃ったということが重要だろう。

E-Bookネイティブの登場は、E-Bookの最適価格を探る上でも貴重な材料を提供してくれる。価格問題の「権威」である作家のジョー・コンラス氏は、既成出版社の価格よりずーっと安くするのがミソで、それでも作家の手取り70%(出版社の場合は出版社の手取りの25~30%。定価の12.5~15%)のおかげで、一定のスケールに達すれば多く受け取ることが出来る。自主出版作家の投資は、編集と表紙デザインだけだ。消費者は安いほど「失望のリスクが小さい」と思い、既成出版社本より手が出しやすい。

Bookbeeというブログを運営するオーストラリアのジャーナリスト、ジェイソン・デイビス氏は、価格問題について書いた記事で、デイブ・スラッシャーという科学者が計算した値を紹介している。印刷本のような可変コストがないE-Bookの最適価格は、売上額を最大にすることを考えればよい。それによると、$2.99~$3.99(250~340円)だという。これは現在の出版社の設定価格の主流である$9.99の半分以下だ。彼らは、価格を下げても消費は増えず、売上は減る、という出版社の見解は、価格感度(price sensitivity)というマーケティングの常識を排除しているとして痛烈に批判する。消費市場では必ず、市場ごとに固有の価格感度が存在し、販売は敏感に価格に反応する。だからこそ薄利多売の小売業が成立するのだ。スラッシャー氏は「E-Book出版社には価格を下げないなどという選択肢はない」とまで言う。彼が分析に使ったのは、ジョー・コンラス氏のデータで、そこには大手出版社の本と自主出版本が含まれている。また特異な販促による影響はない。

図のように、結果は鐘型曲線となり、$2.80~$4が理想的価格という結果が出た。もちろんこれはジョー・コンラス氏の作品の場合だ。しかし、消費者が出してもいいと考える(willingness to pay=WtP)金額は、著名作家の場合は高く、新人の場合はもっと低い。コンラス氏の作品で「さえ」この価格だったのだから、一般的にはさらに下の価格が適正ということになる。WtPを読み誤って下げすぎれば一定の機会損失が生じるが、それは実コストではない。これは売れ残りで苦労する印刷本の場合にはあてはまらないが、E-Bookではこれが現実なのだ。E-Bookの適正価格を考えるべき時が来たと言えよう。

E-Bookはサンプラー(見本)、印刷本は蔵書用という考え方

ベタニー・プレス(Bettany Press)は若い女性向けの小説本を専門とする英国の小出版社だが、最近電子版を印刷版の半年以上前に発行する計画を明らかにした(eBookNewser, 3/7)。£3/$5でKindleストアで販売するが、同社はE-Bookの価格は印刷本よりかなり安く提供すべきと考えているが、作家で経営者のジュー・ゴスリング氏は、「E-Bookはスタンドアロン型商品ではなく、実質的に本のコンテンツに電子的にアクセスするシングルユーザー・ライセンスにほかならない。実際、ブックコレクターは価格さえ適正ならば両方を買い、E-Bookを読んで、印刷版を蔵書にしてくれる」と述べている。

必ずしも本好きではない多くの出版関係者は、基本的に(ごく一部の例外は認めるとして)本というものは<読むことで価値が減る商品>と信じているだけに、この見解は非常に興味深い。これは図書館のE-Book貸出制限問題とも関連するが、重要な論点であると思う。図書館の貸出は印刷本の売上につながる限り、いくら多くてもよいことになるからだ。ゴスリング氏の言うように、両方を買ってくれる読者が多い本であれば、E-Bookは一種のサンプラーで、気軽に買って読めるものであればよく、置いておきたいなら印刷本が欲しくなるだろう。蔵書用の印刷はロスが出ないように控え目でよい。現在の印刷本流通の一部は「店頭展示用見本」として機能しているから、ロスはもともと多く、出版社の負担を大きくしている。そうした意味で、E-Bookをサンプラーとして先行させ、愛読者の数を把握してから印刷本をという手法の成否が注目される。大手出版社は印刷本のイナーシャの影響が強いだけに柔軟なマーケティングが出来ないが、小出版社ほど冒険が出来る。 (鎌田、03/09/2011)

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