図書館問題の第2ラウンド:合意への模索

米国で火がついた「ハーパーコリンズ社 vs. 図書館」問題は、図書館の積極的・消極的な、ハーパーのE-Bookを対象としたボイコットが広がったことで新たな段階に入った。さすがに知識ビジネスの関係者だけに、議論も理性的であって抑制されている。出版社の懸念を代表する見解も、HCより知性的な人物によって整理され、客観性・普遍性を持つまでになった印象がある。論点が明確になったことで、問題の本質と共通の課題も明確になってきた。オープンな議論を重ねていることの成果である。(写真はエフェソスのケルスス古代図書館遺跡)

E-Bookユーザーの権利とは

まず図書館および消費者の立場から権利を明確化しようとするイニシアティブが生まれている。カリフォルニアのサンラファエル図書館のセーラ・ホートン-ジャン氏(写真)は、E-Bookユーザーの権利章典(Ebook Bill of Rights)を提案し、賛同を求めている。内容は4項目。

すべてのE-Bookユーザーは以下の権利を有する。

  1. 排他的制限よりもアクセスを優先する指針の下にE-Bookを使用する権利
  2. ユーザーが選択するハードウェアおよびソフトウェアを含む任意のプラットフォームからE-Bookにアクセスする権利
  3. フェアユースと著作権の範囲内でE-Bookへの注記、章句の引用、印刷を行い、コンテンツを共有する権利。
  4. First Sale Doctrine(頒布権の消尽)をデジタルコンテンツにも拡大する権利。すなわちE-Bookのオーナーに保有、所蔵、共有、再販売の権利を保証する。

これは、本に関する伝統的な権利と図書館の歴史的役割を重視する立場からのもので、少なからぬ支持を得ると考えられる。そしてこれはソフトウェアの知的所有権問題のE-Book版でもある。ソフトウェアは高額なコンピュータから時間をかけて身近なレベルに降りてきたので、著作権は時間をかけて受け容れられ、それに対してフリーソフト運動がオープンソースを広げ、初期には業界から白眼視されながらこれも市場における積極的役割を認められるに至って創造的なバランスが生まれてきた。E-Bookはいきなり消費者や図書館に登場したから、軋轢は当然予想されたことである。

デジタル時代の出版社はサービス業、図書館とも競合する!?

この問題によって浮かび上がったことは、デジタル時代の出版社が、これまでのような「製造業」的な性格を失い、版権ビジネスを中心とした「サービス業」としての主張を始めたということだ。これまでの出版の常識からすると高額の開発費を必要とするアプリの比重が増えるとますますそうした性格が強くなる。ゲームやビジネスソフトのように、貸出しや再販売を禁止しようという動きも出ているし、それは最近喧しい(日本では農業の問題だと考えられている)TPPにおける著作権保護強化の動き(+アメリカの通商外交)とも連動している。「著作権保護」を徹底すれば図書館の機能は大きく制約される。ビジネスや政治から超越した文明社会の灯台のような存在であるべきと考えられてきた図書館は、大きな危機に立っている。そして本の消費者の伝統的権利(譲渡・再販売)も。E-Bookがかすかな存在である限り問題にならなかったことが、市場の1割を占めたアメリカで表面化したわけである。

図書館でのE-Bookの扱いと貸出増加は、昨年後半から目立ち始めた。HCの制限措置は、出版社の危機感(あるいはパニック)の表れだ。DRMは譲渡・再販売を制約するために付けているのだが、4千万台の読書デバイスが普及した状態で図書館での貸出が無制限に行われれば、図書館は「摩耗・劣化しないE-Bookの2週間の無料貸出」サービスと化し、大部分のユーザーは本を買わなくなる。それは少なくとも出版産業にとっての地獄図だ…。

しかし、前号でご紹介したように「26回」という制限は、図書館における印刷本貸出の実情を無視したもので、そもそも図書館がE-Bookを購入する動機(利用者へのサービス、業務合理化)を失わせるものだった。印刷本より割高になり、図書館の予算を簡単にオーバーしてしまうためである。少なくとも26回ではE-Bookが図書館に置いてもらえないことが明らかになったようだ。しかし、1回40~80セント(購入価格$10~$20として)は妥当だと出版関係者は考える。また「ならば××回ではどうか」という声も出てくるだろう。

現実的解決へのステップ

ニュージーランドでMartin Taylor’s eReportを発行するマーティン・テイラー氏(写真)は次のように指摘する。

  • E-Bookによって図書館の性格は一変する。デジタルという性格上、貸出が1,000回、時に10万回となることすら考えられる。
  • 10万回とすると2~4万ドル。著者の収入は5千~1万ドルで、これは強欲とは言えない。
  • 読者拡大に果たす図書館の役割は過大評価されるべきではない。買うより借りることを選ぶ利用者によって、著者・出版社も一定の損失を被っている。
  • 権利者(著者・出版社)はけっして「儲けすぎ」ているわけではない。権利者が損をすれば出版活動が衰退し、結果として社会の損失になる。
  • 逆に図書館施設をデジタル中心にすることで、コストを下げ、図書費の比率を高めることも出来る。すでに図書館は多くの自治体にとって負担になっている(例えば、ニュージーランドでは印刷本を1冊貸し出すのに実質2.5ドルもかかっている)。
  • 図書館の大幅なコストカットを避けるとすれば、現実的に次のオプションしかない。つまり、(1)E-Bookを貸し出さない、(2)政府・自治体の資金援助を仰ぐ、(3)特定のタイプの利用者ないしE-Bookに限り、料金を徴収し、バランスを取る。

テイラー氏はもちろん3番目の選択を推奨する。これは制度設計と運用にもよるが、出版関係者の過剰な懸念と図書館関係者の過剰反応を静めるには、これが最も現実的な解決であるように思える。しかし、まずはテイラー氏も言うように、互いの立場を理解し、事実を認め、課題を共有し、現実的な解決を追求するオープンマインドを持つことが最も重要だろう。誰にとっても完全に満足のいく解決法はない一方、E-Bookの持つ可能性を適切に実現していくことで、誰もが納得する結果は可能なのだから。  (鎌田、03/10/21)

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