デジタル革命と出版社:サイモン&シュスター

サイモン&シュスター社(S&S)のキャロライン・リーディ社長兼CEOは3月23日、The Publishing Pointのインタビュー・セッションで、デジタル革命のさ中にある出版社が直面している現状などについて率直に語り、最大の課題が「著者に対して価値が提供できることを立証する」ことであると述べた(TeleRead, 03/23)。最近強まっている、出版=B2Cビジネス論に対して、出版社はこれまでもB2Cだったし、これからは形を変えなければならなくなっただけ、と反論したもの。

「簡単に本を買ったり売ったりできるようになったことで、市場が急に拡大しました。巨大なチャンスが広がって、楽観的になってます。いまの問題は、読書市場を維持することではなく、拡大させられるかどうかということ。30年以上出版社にいて、いつも斜陽のようなものを感じてきたのに!」

消費者が本と出合う機会を広げなければならない

しかし、この急速な変化はリスクも含んでいる、とリーディCEOはみている。欲しい本を消費者が見つけるのは、たいていは物理的環境(書店・図書館等)だが、その場で買うとは限らない。書店が減り大手小売店が本を扱わなくなれば、消費者が本と出合う機会は減る。その場合は現在の読書人口を広げることはできず、出版市場全体は増えない、ということだろう。出会いを重視する割には、彼女は図書館への提供を認めていない。シナジーが見いだせないから、というが、実験すら行わないのは感心しない。

デジタル化以前から進行してきた傾向を食い止めることが出来ないとすれば、独立系の書店に期待するしかない。リーディ氏は市場の半分強を占めるアマゾン以外の中小独立系オンライン書店に期待する。出版社はアマゾンに頼るのでなく、多種多様なチャネルを開拓し、育てる必要がある。消費者は逃げないが、売り手である書店の選択肢を持っていないと、著者が逃げていく。市場は1社や数社の書店では貧しくなる。

出版社はコンシューマブランドではない

だから出版社にとっての最大の課題は、著者に対して価値が提供できることを立証することで、B2Cビジネスになることではない。本を売る最善の方法はクチコミだが、出版社はこれまでもクチコミを増やすための方法を探して実践してきた。これがB2C。出版社は本質的にB2Cビジネスだが、現在はもっと消費者に直接に関わる必要があるということだ。むしろ著者が出版社を評価する時代となったことを、リーディCEOは強調する。本が最良の形になるよう編集すること、マーケティングをして読者を探すこと、そして著者が執筆に専念できるよう前渡金を提供すること。これらが出版社の価値だ。そして「出版社はコンシューマブランドではない」と宣言する。出版においてブランドは著者であり、出版社は著者に対してだけブランドであるにすぎない。著者たちが自主出版をしないとすれば、それは執筆に集中したいためだ。

電子化によって出版社のほとんどの業務が変わったが、編集だけはあまり変わっていない。すべての本について、デジタルなマーケティング・プランがあり広告がある。装丁や作り方、制作やパブリシティも変わった。デジタル部門は、以前は独立していたが、それでは機能しないと分かったので3年前に全部門に分散させた。万事を学ぶ必要があったが、彼女にとって最大の課題は、電子本と印刷本のバランス、とくに後者が売上が低落していく中での均衡点を見つけることだった。

アプリだけは目途たたず撤退

1月の数字で、米国でのデジタル比率が20%を超えたことが衝撃を広げているが、リーディCEOによれば、S&Sでも部数にして15~20%がE-Bookであり、とくにベストセラー本の最初の数週間は50%を超えている。金額ベースの数字はまだないが、ほぼ20%を見込み、5年以内に5割を超すと見ている。以前はフィクションでE-Bookが多く、ノンフィクションでは少なかったが、最近ではこの差は目立たなくなっている。どの本も、発売後数週間はE-Bookが半分を占める。書評が多ければ、6割あまりにもなる。拡張型E-Bookは不振であり、多くて2,000を超えないので出版計画は完全に中止した。アプリストアの中で埋もれてしまい、目立たせる方法が見つかっていない。他方、印刷本を時代遅れと考えるべきではないとも言う。「上質」を指向する市場が発展し、オンデマンド印刷も普及してくるからだ。

グローバル市場開拓で著作者に還元

E-Bookの版権料についても、リーディCEOは語っている。著作家団体からの不満はあるが、フォーマットによって著者が不利になってはいないと考えている。しかし、長い時間をかけて確立した印刷本に比べると、E-Bookは歴史が浅い。今後市場がグローバルに拡大すれば見直しが必要になってくる。つまり、グローバル化によってパイを大きくすることで著者の要望に応えようということだ。これからの日本の出版社は、ほんとうの意味の「黒船」を迎えることになるのかもしれない。  (03/28/2011)

本インタビューに関する解説と分析は、本号掲載の以下記事で行っています。(会員以外の方は、登録してお読みください。)

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