アマゾンは出版を目ざす!(♥)

アマゾンが新刊書を出す「ふつうの出版社」になろうとしていたことが、意外なところから明らかになった。「近頃奇特な」と言う勿れ。十分に成算があり、しかも自らデビューに手を貸した作家の次回作の版権オークションに参加し、おまけに敗れていたのだ。このことは多くのことを考えさせる。とりあえず2つ。作家にとってはどこの本屋にも自分の本が並んでいるほど気持ちの良いことはないということ。出版は儲かるビジネスだということ。デジタル化で出版のビジネスモデルが変わったということ。[全文=会員]

出版のビジネスモデルは変わった:デビューを助けたのは誰か?

米国で初代「自主出版の女王」となったアマンダ・ホッキング氏が、執筆中の次回作についてマクミラン系出版社と200万ドル以上で契約したことは前号でお伝えしたが、この話にはさらにオチがあった。版権のオークションに参加した6社の中にアマゾンがあり、最高額を提示しながら敗れていたというのだ(Crains New York Business, 04/01)。これを聞いて「ちょっといい話」と溜飲を下げた出版関係者も多かった。アマゾンは「独占販売権」を求め、作家はどこでも売られることを求めた。彼女は自主出版で作家としての地位を築き、億万長者になったが、「自主出版作家」を続けたくはなかった。そもそも「独占販売」は出版にはなじまない…。

その通りだろう。しかし、出版社がデビュー前の彼女を相手にしなかったことも事実であり、金の卵を産む鶏を見逃していた。リスクは取らなかったにせよ、彼女に機会を与えたのはアマゾンであり、他のサービスではこれほどの成功は望めなかったろう。出版社はどこでも「リスク」に敏感になっており、編集者は多くの原稿を「査読」しては返却し、あるいは積んだままにして放置する。彼らは主として商品価値を判定しているのだが、それでも実際に収益をもたらす本は少ない。だから、売れた本の利益で売れなかった本の損失をカバーできなければ成り立たない。紙に印刷し製本して配布・展示するモデルでは、これは不動の事実だった。

E-Bookではそうではない。ホッキング氏のケースでは、アマゾンが売り出した作家を、在来出版社がさらったのだと、形の上では言える。リスクを負って新人を売りだすという「出版社の神話」の逆をいく事例で、出版社はアマゾンに感謝すべきだろう。同時に、デジタル時代のビジネスモデルを再考しないと、不動の前提が維持できなくなることも認識しなければならない。E-Bookは金銭的リスクが少ないのだから、コンテンツの「価値」評価を先行すべきなのであって「リスク」を先に考えるべきではないということだ。売れないリスクは最小化できる。

陰の出版社アマゾン!?

しかし、われわれはさらに別のことも考えなければならない。アマゾンが新刊書の出版社として既存の出版社と競合関係に立っている、ということだ。過去にアマゾンは出版社となる意思を持たないと表明してきた。既刊本の再刊は電子化、自主出版サービスは、あくまで「機会の提供」と言えなくもない。しかし、今回は作家の新作の出版権を獲得し、印刷とE-Bookの両方を行おうとしたのだ。アマゾンは明らかに一線を越えた。インサイダーによれば、ホートン・ミフリン・ハーコート(Houghton Mifflin Harcourt)という老舗出版社を前面に立てていたというのだから手が込んでいる。日本でもよくある名義貸しのようなものか。なお、アマゾンもHMHも本件についてコメントしていない。

アマゾンの市場シェアはE-Bookで65%(下降中)、印刷本で20~30%(上昇中)と言われる。アマゾンはマーケットを知っており、作家に対して無理なく高額の前渡金を提示し、確実に回収できる。印税も(25%をシーリングとしている)出版社より高い。ホッキング氏の判断はともかくとして、出版界が別のビジネスモデルを持つライバルを相手としなければなくなった事実は残る。アマゾンが作家の選択に漏れた理由は、「独占販売」だった。著者としては、どこの本屋にも自著が並んでいるほど気持ちの良いことはない。アマゾンの本業がオンライン小売業であることを想い出させるが、おそらくアマゾンは今回の経験から、出版ビジネスと流通ビジネスの関係を調整して出版に進出してくるだろう。そして老舗出版社と提携することで「陰の出版社」となっていくと思われる。  (鎌田、04/07/2011)

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