『ハリー・ポッター』シリーズ7作がとうとう電子化されそうだ。エージェントが「E-Bookでの発売を具体的に検討している」と述べたことから各国の出版関係者やファンの注目を浴びているもので、総資産1,200億円のJ.K.ローリング女史に、さらに1億ポンド(約140億円)をもたらすだろうと言われている。また、これが「ビートルズのiTunes登場と同じような」効果をE-Bookビジネスにもたらす、と見ている人もいる。世界の子供にE-Readerを普及させるきっかけとなる可能性も。とりあえず本誌が注目するのは、落札する出版社、グローバルな版権の扱い、そして消費者の反応の3点。
米国では、まったくデジタル化されていない著名作家などあまり残っていない。しかし、『ハリー・ポッタ―』のJ.K.ローリングは別格だった。本人が拒否しており、昨年5月には、今回と同様に代理人が「検討中」と述べたことで期待されたものの、結局何も起きなかった経緯があるからだ。発売当夜には続々と登場する非合法のハリポタ電子版は、海賊版に対する懸念を表明してきた著者の思惑とは逆に、依然として海賊たちに富をもたらし続けている。E-Bookビジネスの関係者に「今更の観がありインパクトは弱い」という反応が少なくないのは、そうした背景がある。しかし、海賊の収入の行方のほかにも、最大の商品価値を持ったコンテンツのデジタル化に注目すべき点はいくつもある。
- E-Book版、拡張E-Book版など、フォーマットと落札条件、出版社
- グローバルな版権の分割形態(地域/国、言語など)
- 消費者の行動。とくに印刷本読者が再びE-Bookを購入するかどうかなど
外国語を勉強している人は、他国語版を欲しがるかもしれない。あまりにポピュラーな作品だけに、カネをかけてもデジタルの特徴を生かしたコンテンツを開発しようという出版社(とは限らない)が出てくる可能性も強い。するとデジタル化権は、隣接権も絡むので、印刷本著作権とは比較にならないほど複雑なものとなるのでは、と憶測してしまう。E-Book版が遅れたのは、稀代のコンテンツだけに簡単に結論が出なかったためかも知れない。いずれにせよ、今年中に出ることを期待する。それにしても、分厚い本を鞄に入れて通学していた子供たちはどうなるのか。 ◆ (04/07/2011)