オライリーが印刷本を段階的に廃止しPoD移行

米国の書籍流通大手のイングラム・グループ(テネシー州ナッシュビル)は4月7日、IT関連書籍出版のオライリー・メディア社から書籍在庫管理を受注するとともに印刷本の流通を段階的にプリントオンデマンド(PoD)に移行していくことを明らかにした(リリース)。同社は出版社向けの電子本/印刷本の一貫した取次・在庫管理ソリューションとPoDを提供しているが、このサービスを利用することにより、オライリーは、印刷コストと在庫負担からの解放を目ざしている。デジタル時代に適応できる印刷本の製作・流通システムが、出版社、書店、印刷会社にとって重要なテーマとなってきた。

どうということのないニュースに見えるが、ここには出版社のビジネスモデルの根幹に関わる重要なポイントが含まれている。つまり、(1)デジタル時代に印刷本の供給をどう行っていくのか、(2)インフラとしてのPoDをどう構築していくのか、ということである。イングラムとオライリーは、先端をいっている。

紙から電子への脱出が始まった:出版社の移行戦略

米国では誰の予想も超えた速度で変化が進んでいる。2011年にデジタルコンテンツが主要な商品となることを、すでに出版社は既定の事実として織り込んでおり、対応を速めている。移行(サバイバル)戦略は、出版市場(読者×消費額)がデジタル化によって拡大することを前提としているが、ポイントは2つ。

  1. E-Bookを徹底して販売し、可能な限り多くのシェアと利益を確保すること
  2. 人々が本に接する機会を提供している印刷本の流通を可能な限り維持すること

E-Bookの販売加速が印刷本の流通を縮小させる可能性は高いので、この2つはトレードオフを含んでいる。そして前者にはかなりの投資が必要で、後者でのロスは極力避けたい。これは非常にコントロールが難しいゲームだ。オライリーのローラ・ボールドウィン社長が「従来の出版モデルはもはや財務的に成り立たない」と述べているが、新しいモデルについての答は自分で探すしかない。「Web 2.0」の発明(提唱)者であるティム・オライリーが創業した同社は、米国と欧州でTOC (Tools of Change)という出版にフォーカスしたイベントも主催し、無償やDRMフリーのE-Bookを出して継続的に追跡調査を行うなど、イノベーターとしての出版社の形を実践している。同社の方向は、分野の違う他の出版社にも影響を及ぼすだろう。

他方、イングラム社は着実にデジタル化戦略を実行しており、その中心は出版社のためのコンテンツ管理と在庫管理を統合したデジタル・アセット・マネジメントをベースにしたソリューションだ。PoDについてはライトニング・ソース(Lightning Source)という子会社がサービスを行い、グローバルに展開している。印刷本のロジスティクスの基盤の上に、コンテンツ管理を含むE-BookとPoDへの対応を組込んだサービスは、出版社の移行戦略とマッチしており、大手出版社も顧客としている。

一部を例外として、2009年までの出版社には戦略というほどのものはなく、2を最優先しつつ、徐々に電子化を進めるという程度のものだった。これは今日の日本の出版界の姿勢とあまり変わらない(しかし、組版・製版までを内製していたので、E-Book化はいつでも対応できた)。2010年の前半で、E-Bookは出版社の利益に貢献するようになった。しかも2を絶対の前提とする従来の方法では、E-Bookの販売の足を引っ張り、企業の成長力、持続性を損なうことが明らかになり、新刊はハードカバーを先行するという「不文律」を撤回。そして2010年後半には、E-Bookへの投資(マーケティング基盤構築とグローバル化)を重視する方向に転換していた。この変わり身の早さは驚くほどだ。専用リーダとタブレットを合わせると、米国内には4,000万台以上のデバイスが普及しているから、この転換自体は当然だろう。しかし、そうするとなお需要のある印刷本をどう扱うかが問題になってくる。

以下の記事では、デジタル時代の印刷本とPoDの可能性について検討してみたい。 (鎌田、04/13/2011)

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