NYタイムズの“ペイウォール”は機能するか (♥)

New York Times Company(NYT)は4月29日、2011年1Qの決算を発表し、ジャネット・ロビンソンCEOは、3月28日に導入されたNYTimes.comの有料モデル(ペイウォール)への自信を表明した(議事録)。オンライン調査会社Experian Hitwiseによるペイウォール導入後12日間の分析データによると、導入後の12日間でアクセス数は5~15%減少、ページビューも11%~30%減った。しかし1,300万ドルをかけたキャンペーンの成果として、新規購読者は3週間で10万を超え、NYTは「予想以上」と評価している。[全文=会員]

時限爆弾を抱えたNYTの経営

NYT (Boston Globeも所有) の経営危機は深刻だ。2009年末には手元流動性が3,650万ドルにまで減少、重大な事態を迎えた。昨年末には4億ドルに回復したが、これは資産売却や借入によるもので、本業が上向いてきたわけではない。2年以内には再建軌道に乗せないと、上場企業だけに苦しくなる。印刷部数が減少する中で「老婦人」(文字が多く写真が少ないことで付けられたタイムズ紙の渾名)が再生するには、起死回生のロングパスとなるべきデジタル戦略の成功が必要だということでアナリストの見方は一致している。手段としては広告と有料化だが、前者では競争が激烈なので、有料化に期待が集まっているわけである。しかし、コトはそう単純ではない。

デジタル購読者数が3週間で10万という出足は悪くない。しかし、2005年9月からTimes Selectで試行した有料化では、2ヵ月で12万人を超えたものの、8ヵ月後でも17万人と鈍化。結局2年後の07年9月、22万7,000となったところで中止した。当時は広告モデルに比べて引き合わないものとされた結果だが、最初の2ヵ月で達成した数字をあとの22ヵ月で超えられなかったことになる。今回の有料化でも、5月末までの水準の倍を超えることが目標になる。

ペイウォールにはいくつかの方式がある。本誌のように、有料記事(セクション)についてログインを必要とするものが一般的だが、記事ページのダウンロードが一定数を超えるとログインを必要とするものも増えてきた。NYTの有料化方式は、月に20本まで無料とし、広告への悪影響に配慮している。また「壁」の作り方にも方式があり、極度に厳重にすれば、検索エンジンやニュース・アグリゲータ―からのアクセスも不可能になるが、当然副作用も大きい。あるていどの「穴」も必要となる。それにしてもNYTの穴はかなり大きい。20本という設定も(ユーザーIDではなく)クッキーで識別しているだけなので、デバイスを替えればまたゼロから始まるし、クッキーを消してしまえば無制限だ。ということで意識的に穴を最大化している。また(WSJと異なって)85万人の印刷版定期購読者は追加費用なしでフルアクセスできるが、これはNYTが忠実な読者の価値を最重視していることを示している。

@=購読×広告×SNS

紙の購読者を無料にできたのは、自動車メーカーがスポンサーとなることで可能となったようだ。つまり、「有料顧客」としての媒体価格が特別に評価されたわけで、購読者の属性や契約モデルごとの広告料を別に設定するといったことが積極的に試みられるだろう。購読者が100万のオーダーになってもデジタル購読料の収入は数億ドル規模で、コストはカバーできない。NYT経営陣もそれは百も承知で、オンライン広告営業と広告表現/手法の開発に力を入れている。ピアソンが保有する英国のFinancial Timesのデジタル戦略は購読と広告の両輪が機能して好調だが、それは「最適配分」による。FTは2010年後半で22万4,000人の新規読者と広告収入の増加を達成した。逆に英紙ロンドンタイムズは昨年79,000人の有料読者を獲得したもののオンライン読者を90%失った。媒体と読者の性格の違いによるところも大きい。しかし今回はNYTもペイウォールを諦めるつもりはない。

ComScoreによれば、NYTimes.comのユニークユーザーは、全世界で3,100万人に達する。この読者を媒体化するには、たんにソーシャルネットワーキングを含めた方法を考案する必要がある。1,000万単位の(かなりハイブローな)読者からコンスタントに支払いを求めるのに、現在の相場で月15ドルは高すぎる。5ドルがよいところだろう。その場合、購読料は事業を直接ペイさせるためではなく、広告との最適な組合せのベースとするためのものとなる。

Huffington Postなどの「ファーストフード」オンラインニュースと比べて、NYTのコンテンツの質はなお一級と評価されており、例えば福島原発に関する報道でも、情報の量も調査報道・論説の質も群を抜いている。その質を評価できる読者こそ、広告主が評価する対象であることは間違いない。  (鎌田、05/04/2011)

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