ハリー・ポッターと魔法の「完全自主出版」 (♥)

J.K.ローリング女史が Pottermore という専用サイトを開設して『ハリー・ポッター』の全巻 E-Book 版+αを直販していく計画を6月23日に発表し、出版界に大きな波紋を生んでいる。それは過去最大規模のこの電子出版プロジェクトが、(事実上)出版社はおろか書店さえも通さず、アマゾン、アップル、 Google も無関係という完全「自主」型のものだからだ。とうとう作家が自主出版・自主販売する時代がやってきた。これを例外中の例外と考えたい人は多いだろうが、そうとは思えない。一般化できる合理性があり、しかも「完全自主」を選択肢として持つ作家の立場はますます強くなるからだ。[全文=会員]

「進歩を押し止めることはできない、と私は考えています。紙の本は好きですが、…今年になって初めてE-Bookをダウンロードして、素敵なのに驚きました。これを持って世界中を歩いてみたい。」

マルチフォーマット/デバイスを独自に実現、独占販売

極貧の中、生活保護を受けながら執筆を続け、8つの出版社に断られながら、唯一ゴーサインを出したブルームズベリー社と前渡金2,500ポンドで契約し、1997年に初版500部でスタートしたシリーズは、その後全7巻、累計4.5億冊と驚異的な成功を収めた。静山社が出した日本語版(1,900万部)にもそうしたエピソードがある。出版社とはどうも相性がよくないようだ。「歴史上最も多くの報酬を得た作家」となった現在、すべて自前でやることに不思議はないが、後述するように、書店から大きなクレームが出されている。

The Bookseller
(06/23)によると、Potternmoreの販売システムを構築したのは、図書貸出システムで知られる米国のOverdrive社で、ほかにウォーターストーンやW.H.スミスのオンラインブックストアを手掛けている。「私にとっては簡単明瞭。…世界中の人が同じ体験を同時にすることができるから。私にとっては、その資力があって自分で出来るというのはとても幸運でした。適切な人を選んで、自分の時間も使ってやるだけです。ファンや私にとってはほかに選択はありませんでした。ポッターのファンは、オンライン・コミュニティを持っている最初の世代の一つで、今度のサイトもJKRowling.comの拡張のようです。」

Pottermore のロッド・ヘンウッドCEOによれば、サイトでは印刷本の直販は行わず、また書店とのマーケティング連携も考慮しているので、問題はないと強調している。またアマゾン、アップル、Googleに対してはコンテンツがデバイスによらず利用可能であることを確認しており、価格はできるだけ多くの読者が読めるように、独自に決定する、と述べている。サイトがゲームを扱うのではないかという憶測に対しては、ローリング女史自身が明確に否定し、ポッターモアの体験は、あくまで読書を通じて得られる、文学的なものに限定したい、と述べている。

サイトで提供されるコンテンツとサービスの内容については、7月31日のサイト開設の際に検討してみたいが、基本的には会員制で、作品世界をよりよく知るための関連コンテンツ(百科事典、未発表素材などを構想)、会員の情報交換のためのソーシャルリーディング・サービスを提供しつつ、E-Bookコンテンツを販売することが中心となろう。おそらくHTML5とCSS3をフルに使うことになるサイトとオフラインコンテンツの連携に注目したい。マルチデバイス化は、アマゾンのKindleアプリのような形で提供されるだろう。(次ページへ続く)

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