ハリー・ポッターと魔法の「完全自主出版」 (♥)

出版のバリューチェーンにおいて「神」は死んだ

E-Bookの直販によって、原出版社のブルームズベリーも収入の一部を得るようだ。しかし、お相伴にあずかれるのはそこまで。E-Bookなので、通常の書店が関与できないのは仕方がないが、オンラインストアを持つ英国のウォーターストーンやW.H.スミスは、ローリング女史の「独占直販」宣言を受けて「大きな失望」を表明したが、同時にサイトと連携することで印刷本の販売を再活性化させる期待も示している。独立系書店の中には「これまで販売に協力してきた書店を無情にも切り捨てる」ものという声も少なくない。ローリング女史はいまや書店にとって意地悪な魔女のように見えているのかもしれない。立上げまでにポッターモアがしなければならないことの中には、コンテンツやUIばかりでなく、書店とのエコシステムと信頼感の再構築も含まれている。

これまで多くの有名著者が自主出版に転換し、他方で自主出版で地位を築いた作家が大手出版社を選ぶなど、逆転現象がみられた。そして電子化権を話さなかった超大物は完全直販を選択した。これをどう考えたらよいだろう。

多くの著作者にとって、出版社の最大の価値は、一部でも多く、少しでも長く販売し代金を回収して確実に印税報酬を届けてくれることだ(編集やデザインの価値はケースバイケースで、評価は一定しない)。アマゾンとKindleによって、マーケティングと印税支払はオンライン書店でも(出版社でなくても)可能であることが証明された。ローリング女史はさらに、読者と「体験環境」を共有できるコンテンツがあれば、オンライン書店さえ作家が運営することが出来ることを証明しようとしている。オンラインの販売・決済プラットフォームじたいは、じつは出版関係者が考えるように難しいものではない。ローリング女史のような金持ちでなくても可能だ。

自主出版の効用を説く著者は、企画からマーケティング、販売まで、すべて著者に出来ないことはなく、むしろその能力を持たずに出版社と付き合うことがますます難しくなっていると述べている。『ハリー・ポッター』が示したように、出版社が名もない著者の原稿やアイデアとまともに付きあってくれる機会はますます減っている。トールキンなどを読んでいる一流編集者には『ハリー・ポッター』が大して取り柄のない、売れそうもないものに思えた。彼らには読者が見えていなかった。著者にとっては読者へのアクセスと本を通じた対話がすべてで、そこで魔法を起こせば出版社は不要になる。出版というバリューチェーン全体に対する支配力を失った出版社にとって、コンテンツと読者の間に生まれる魔法/奇跡を主宰することしかない。そのためにはソーシャルリーディングの環境を出版社が提供することが不可欠になるだろう。 (鎌田、06/30/2011)

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