E-Bookがペーパーバック版の刊行を早める

米国の経験によっても、E-Bookと印刷本の数字には相関が見いだせていない一方で、E-Bookの伸びとペーパーバック(PB)の減少の間には顕著な相関がありそうだ。しかしこれも早合点で、現在のように、新刊ハードカバーと同時に発売される電子版とPB版の間に12ヵ月もの時間差があっては比較のしようがない。消費者の間にPBへの根強い需要があるのに、これを無視し続けた結果PBへの需要が電子版に流れている可能性は否定できないからだ。New York Timesのジュリー・ボスマン記者は7月26日の記事で、PBの刊行時期を早める出版社の動きを伝えている。

米国におけるペーパーバックは大衆消費社会とともに普及し、出版ビジネスと大手書店チェーンの成長を大いに助けた。しかし、多くの場合、日本の文庫版のような位置づけのPBは、印刷・装丁だけでなく時間的にも序列がつけられており、新刊の12ヵ月後にやっと現れる。1年はあまりに長い。E-Bookが登場した当初は、電子版をさらに遅らせようとか、両者の中間にしようとか議論されたが、結局は市場の圧力でハードカバーと同時に出すのが常識になりつつある。機会損失が大きいと判断されたのだろう。他方で、PBは置き去りにされていた。あまりのことである。

勢いが失われないうちに出す

この矛盾に気づいた出版社はようやく刊行を早め始めた。6ヵ月あるいはそれ以下というのもある。これはハリウッドが封切り映画とDVDの感覚を縮める動きを見せているのと同じ動きだ。話題になっているうちに売らないとマーケティングコストが嵩む、というのがもっともな理由だ。日本と同様に、出版物のライフサイクルも短期化する傾向にあり、米国の出版社は毎月の販売数を注意深くチェックして、PBの刊行時期を決定するようになってきた、とNYTの記事は伝えている。通常、E-Bookは刊行当初こそ強いもののPBが出ると反騰することはない。E-BookとPBの価格差は現在のところ数ドルであり、PBがあればそちらを選ぶことが多くなるとみられている。

とはいえ、例外はある。ハードカバーが売れている間は出さない出版社は少なくない。スティーグ・ラーションの『ミレニアム三部作』の三作目は、1年以上経過してHCが250万部、E-Bookが110万部売れたのだが、PBはまだ保留にされている。レスリー・ゲルブマンの『ザ・ヘルプ』を出したペンギンUSAは、103週連続してベストセラーリストに載っているのでPBはまだ出さない。しかし、こうした出版社に対し、ペーパーバック版が好きな消費者は多い、と書店関係者は指摘する。印刷版の中では、むしろPBこそ生き残るのではないかという人もいるほどだ。

いっそのこと、HC/PB/EBを同時に出して販売パターンを比較し、印刷版については採算点を割る以前に増刷を終了してみたらどうだろうか。その際、HC版はプレミア版として付加価値を高め、EBは見本版的な位置づけにしても悪くないだろう。1年もPB版を待つ消費者はそう多くない。それを考えれば、PBがなお出版社の主力商品であることにこそ注目した方がいい。ともかく、出版社がPBの刊行を機械的にではなく、「機会的」に考え始めたことは重要だ。HC/PB/EBのベストミックスを可能とする発行間隔と価格差問題は、確かなデータと推論の上に、3年以内には解決すると考えられる。  (鎌田、07/28/2011)

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