米国の出版シンクタンクBISG (Book Industry Study Group)は8月19日、2011年5月調査のデータを分析した「E-Book読書に関する消費者動向」の四半期レポート (Vol.2)を刊行した。出版界に大きな影響を与えた2010-11年のホリデーシーズンが、読書にどんな影響を与えたかを評価するもので、重要な資料である。レポートは、E-Book購入者は引続き購入を増やし、電子読書への傾斜を強めているほか、アマゾンのシェアが70%(1年前は60%)に達したことなどを伝えている。[全文=♥会員]
販売チャネルはアマゾンとB&Nの2社に集中化
BISGのこの調査(Consumer Attitudes Toward E-Book Reading)は、デジタル・リーディングに関する定点観測調査で、調査設計やサンプリングもしっかりしており、信頼できる)。読書デバイス、書籍の購入の増減、利用書店などをフォローしている。比較的高価なものなので、本誌はPublishers Weekly (8/19)で概要を知るしかないが、ほぼ以下のトレンドが分かる。
2年前には多数を占めていたPCは、専用リーダと多機能デバイス(タブレット+スマートフォン+α)にとって代わられつつある。専用リーダが4割台でPCに並び、多機能デバイスは初めて1割を超えた。
- E-Book購入者は、書籍の購入を増やしているが、それは主にE-Bookに向かっており、ハードカバーとペーパーバックの購入をやや減らしている。レポートでは、電子本と印刷本について、それぞれ「増やした」と「減らした」を比較しているが、E-Bookを増やしたとするものは、じつに67%で、10年9月調査の48%から20ポイント近く上がっている。逆に、ハードカバー本を減らしたとするものが40%から45%とわずかに増えた。
- 12月に読書デバイスを得た消費者の35%は、1月に書籍購入を増やした。その勢いは5月にやや落ちたものの、なお「増やした」が「減らした」より10ポイント近く多い。読書デバイスの供給増は書籍市場の拡大に貢献していると言いうる。
アマゾンのシェアは5月時点で70%と1年前から10ポイント伸ばした。B&Nも27%と健闘している。シェアを落としたのはiBookstore/iTunesで、北米市場に関する限り、これは深刻な数字といえる。好調なiPadと好対照なiBookstoreの不振は、iPadと読書とのミスマッチというしかない。
- 消費者にとって、E-Book購入における唯一の問題はコンテンツの価格であるようで、そう感じる消費者は、11年5月までの1年間に22%から28%に上昇している。デジタル・リーディングに慣れた読者が購入書籍数を増やしたいのに対し、比較的高めに据え置かれた価格がネックになっていると言える。
- E-Book購入においては、無料サンプルが最も役に立つようで、オンライン・レビューを上回っている。「中身を読んでから」という消費者は増えてきそうで、出版社/書店としても、1章を無料サンプルにしたり、試読を可能にするなどの対応が必要になってくるだろう。
デジタル読者を狙え
全体を通して言えることは、以下のようなことだと思われる。
- デジタル・リーディングの浸透とともに、消費者は(他のメディアへの支出を減らしても)より多くを書籍の購入に使うようになる。つまりデジタル化によって出版社は大きな成長機会を得ている。印刷本が減ることだけを気にしていては将来はない。
- 理由は主としてE-Bookあるいはそれを読むデバイスの魅力というよりは、<オンライン探索→購入→読書>の一貫した環境によるものだ。本と読者を知るアマゾン、B&Nへの集中とアップルの不振は、そのことを示している。
- 有効な販売チャネルが、紙とデジタルの両方を扱う2社に収斂したことにより、出版社間の競争は激化するだろう。電子本と印刷本のバランス、とくに価格とマーケティングは、最も重要な差別化=成功要因となる。
iPad(あるいはタブレット)は、雑誌やマンガ、ダイナミック・コンテンツに関しては重要なデバイスだ。しかしデジタル出版市場は、これまでのところ「専用リーダ」と「専門書店」を中心に動いてきたし、それが市場(消費者)の選択だった。好むと好まざるとに関わらず、出版社もIT企業もその現実を理解する必要がある。 ◆ (鎌田、08/25/2011)