米国SF誌がフリーミアム・マーケティング

60年以上の歴史を持つSFとファンタジー小説の専門誌Fantasy & Science Fiction (F&SF)がKindleストアでフリーミアムモデルを導入する。毎号ノンフィクション記事の全部とストーリー1本を、登録した希望者に対して無償提供する一方で、独自コンテンツも入れた拡張版の有料購読(月2.99ドル、年間12ドル)を販売する。登録者には毎号案内を発送することができる。新規読者獲得のためのメール・マーケティングには相当なコストと手間がかかるが、F&SFはKindleストアを実質的に一種のEメール・マーケティング・ツールとして使い、コンテンツの販売に結びつけようとしている。

フリーミアム・モデルはWebサービスで確立

「マーケティングにはカネをかけるな、知恵を使え」というのがWeb時代のビジネスの基本で、とくにソフトウェアを含むデジタルコンテンツについてあてはまる。試供品ではなく実物(の一部)を提供することでユーザーを確保し、その中の数%でも購読者になればよいという考え方だ。コストがかからず母数が巨大なら、1%でも十分に引き合う。それに、中身がよければ宣伝はユーザーに任せることができる。

日本でもユーザーが少なくない、Webパーソナルノート・サービスを提供するEvernoteは、開始3年で270万人のユーザー、毎日7,000人の新規会員を受け入れているが、基本サービス以上の機能を求める有償会員は5万人。2%を切るくらいだが、ユーザーの増加が月10%なのに対して売上の増加は月18%。不活発なユーザーは時間がたつと消えていき、活発なユーザーは残って払い続ける。これがフリーミアム・モデルの基本的な形だ。

Kindleの配信プラットフォームとユーザーベースは、確かに出版社にとっては最良のもので、多くのSFファンと潜在読者を発掘できる可能性がある。毎号1ドルというのは、日本で考えると内容と比べて異常に安いが、米国の雑誌は10万単位の読者を維持していくことが前提となるビジネスなので、印刷版だけの時代、新規読者の獲得と既存読者の契約更新には莫大なコストを要した。F&SFのようなモデルは出版業界においては目新しいものだが、その結果が注目される。  (08/04/2011)

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