カニバリズムは神話だった:米国出版市場は持続的成長

米国出版社協会(AAP)とシンクタンクのBISGが始めた新しい包括的な出版統計サービスBookStatsの最初のレポート(有料)が8月9日発表され、主要な数字が明らかにされた。最も注目されたのは、米国の書籍出版が2008年以降、E-Bookの急速に拡大する中で、全体としてどうなったかということだったが、不況下の2年間で5.6%と低いながらも着実に成長していたことが示され、少なくともマクロではE-Bookが出版業界にとって貴重な商品であることが確認された形となった。

デジタルと紙の共存は可能。ただし市場はデジタルが牽引

2010年の卸販売額(つまり出版社の手取り額)は、3.1%伸びて279億ドル。E-Bookの売上は8億7,800万ドルで、構成比は2008年の0.5%から6.4% (13倍)と急伸した。予想通り、印刷書籍の落ち込みをE-Bookが補って、さらにお釣りがきたという形だ。一般商業出版以外を含む全分野まで広げてみると、デジタル出版は38.9%増の16億2,000万ドルにもなる。これに小売マージンを乗せた、出版産業全体としての比較可能な出荷額は、日本円にして2,000億円に近いものと考えられる。しかもまだ年率100%を超えて成長を続けている。日本の調査会社の多くがいまだに誤解しているが、いいかげん認識を改めてもらいたい。

データから言えることは5点。

  • 第1に、出版は持続的な成長が可能な産業であり、それは本の入手性、可用性、拡張性を飛躍的に高めたデジタル・フォーマットによってのみ実現されることが証明された。これは米国に限定されない。
  • 第2に、欧米の出版社がE-Bookに対する認識を完全に改めた背景が、精度を高めた統計によって明らかになった。E-Bookは出版社にとって、問題児どころか孝行息子であり、将来の希望を託し、積極的な投資を行う価値があるということだ。
  • 第3に、今回の発表は今年前半をカバーしていないが、成長はまったく減速することなく続いている。大手出版社の経営者は、この半年でE-Bookが今後の出版を牽引する存在となったことを明確に認識した。
  • 第4に、ニュースメディアと異なり、書籍出版はWebとの共存が最も容易で、しかもWebによって成長が可能であったこと。Webは本を21世紀の先進的メディアに変えた。
  • 第5に、いわゆるカニバリズム論の誤りが証明された。印刷書籍との共存は、デジタルと紙という単純かつ無意味な二分法ではなく、価格や発行時期、販売チャネルなどの要因を考慮した、ミクロな個別ケースで判断するほかはない。

BookStatsはAAP/BISGが1年半の準備期間をかけてスタートさせたもので、合計で153億ドルを売上げる1,963社からの回答データをもとに全体規模を推計したもの。これまでAAPが発表してきたのは会員企業の大手14社の申告による卸販売額であり、米国の書籍出版の全体を代表するものではなかった。また2ヵ月遅れで発表される月次統計は、(本誌でも紹介してきたが)一種の「速報値」で、最終的に確定した数字は数ヵ月経たないと発表されないという問題もあった。BookStatsによって、より正確な判断ができるようになるのは喜ばしい。  (鎌田、08/11/2011)

Comments

  1. 日本の年間7万点新刊がでる状態は、そのままでは電子書籍にはいきそうもない。

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