NYタイムズ紙「フェンス方式」の有料化が成功 (♥)

3月から始まったNY Times (NYT)のペイ・ウォール導入では、1年で30万人の有料購読者が目標とされていたが、開始4ヵ月で実質的にこの目標を超過達成して話題となっている。この目標については、Wall St. Journal (WSJ)と対比して懐疑的な声が圧倒的に多かったのだが、筆者はそれが頑丈な壁ではなく軽く越えられるフェンスであったことに注目した。オンライン新聞の有料化で最も重要なことは、広告と新規購読者の源泉である「ビジター」を減らさないことだと考えたからである。NYTの成功は、熟慮の末に選んだ「フェンス」方式が期待通りに働いたことを示している。 [全文=会員]

初年度の目標を4ヵ月で超過達成

7月21日に発表された数字では、オンライン版の有料読者数22万4,000人。これにKindleとNook使った購読者5万7,000人、フォード社(リンカーン)がスポンサーした約10万人を加えれば、計画を上回る40万人あまりということになる(印刷版定期購読者75万6,000人はオンライン版へのアクセス資格を持つ)。大ざっぱに、一人当たり年間200ドルの購読料が入るとして、50万人で1億ドル。オンライン広告収入は3.5憶ドル程度。NYTの総収入20億ドル余りと比べれば、まだ4分の1に満たないが、それにしても経営危機にあった同社としては、久々に良いニュースだろう。オンライン版読者は、広告市場では「愛読者」と考えられ、プレミアムがつくから、広告収入との相乗効果が期待できるからだ。(→NYTリリース)

新聞や雑誌のペイウォール導入に関しては本誌でも何度か取上げた。これまではWSJやFinancial Timesの「成功」が伝えられているが、言うまでもなく読者のプロファイルの集約性が高い(つまり金融・経済コミュニティ)ものであり、これがそのまま総合紙にも適用できるとは思われなかった。NYTが「導入」を発表してから長い検討期間をもったのは、これまでのように高く、堅固なウォールでも、複数のウォールやフェンスを組合せたものでもない、多分に読者の善意を前提とした「単純で侵入が容易なフェンス」の有効性を慎重には買っていたためと思われる。

NYTのサービスが高い評価を受けているのは、TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワーキング・サービスで記事を共有しやすいということだ。これが出来ないFTを読まなくなった人も多い。記事は共有されることで意味を高める。同じ品質の記事でも、共有可能でない記事からは自然とユーザーが遠ざかる。いわば、壁の中の読者と、壁の外の友人との間で会話も出来ないわけで、有料読者が塀の中に置かれるストレスは大きい。NYTの場合は、それがまったくない。また、Twitterで言及されていた記事を読む場合は、FTではログインしなければ読めないのに対して、NYTではそのまま読める。

読者を「隔離」するペイウォールは成功しない

つまり、鎧戸を開け、塀の中に入って「静かに」有料記事を読めるということを、読者は必ずしも「特権」のようには感じず、むしろ不自由で面倒臭いと感じるようになっているのかもしれない。他方でHuffington Postなどのファーストフード的記事でも好評を得て広告収入を稼いでいるのは、もちろん手軽だからだ。NYTは前者の問題を慎重に検討した上で、有料サービスと無料Webサービスの中間に新しいモデルを作ったといえるかもしれない。その場合、購読者の「特権」は少なく、非購読者でもコンテンツにアクセスできないわけではないので、読者にとって購読料は「気分よく利用するため」の使用料という程度の意味かもしれない。その結果、年間で200ドル余りという料金を気にしない人だけが払うことになるのだが、この読者の広告価値は非常に高い。

NYTの成功は「性善」モデルとも言うべきもので、News Corp.の(というよりは「タダで読ませるわけにはいかないという、伝統的・常識的なコンテンツ産業の)「性悪」モデルと対比される、一種の賭けであった。日本では日経新聞と朝日新聞がペイウォールを導入しているが、販売店(つまり再版)体制の護持、印刷版読者の優遇と高額な料金、ソーシアビリティの欠如、とユーザーにとってあまりに価値の低いものであった。現在の紙面のオンライン版で難しいのなら、いっそWebオンライン/オフライン・メディアをゼロから考えたほうがいいのではないだろうか。

NYTの事例を敷衍して、米国ではE-BookにおけるDRMを考えようという声がある。つまりまともなユーザーを縛り、海賊を自由にするDRMは、有料読者を塀の中に閉じ込めるペイウォールと同じではないか、ということだが、この問題は別に考えてみたい。  (鎌田、08/18/2011)

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