E-Book価格問題ノート(1):価値と費用

No.48 (08/18)に掲載した「E-Bookの価格問題」の記事(本日一般公開)について、読者の方からコメントをいただいた。印刷本の20~30%引き、という欧米の消費者調査の結果を「だいたい予想していた高数字」と見ておられるが、同意見の方は少なくないと思う。自分が本を買う立場として考えるとそんなところだろう、ということだ。しかし、採算性の読めない(比率的にはハイリスクな)商品群を扱う当事者としては、値引きをしてさらに売上を減らし、赤字を拡大することへの不安は強い。現に、ご指摘のように、コンテンツには「売れないと高くなる」という性質もある。ここでは、本誌なりの問題提起として、価格問題へのアプローチをノートにまとめ、読者諸賢の批判に委ねたいと思う。

まず確認しなければならないのは、現状では紙の既刊書籍を、販売計画もないまま、出版点数だけをノルマのように考えて、一種実験のように「電子書籍化」している例が多く、ターゲット期間、読者層とアクセス手段、売上目標も考えられないのでは、そもそも売れるほうが奇跡と考えるべきなのではないかということだ。価格を検討するには、印刷本がそうであるように、枠組み、変数、条件を吟味する必要があるが、E-Bookはコスト体系や発生の形態が印刷本とまったく異なるので、印刷本の場合の前提を不用意に持ち込むだけで生産的な議論は出来なくなる。

バリュー・チェーンにおける価値と費用

そうした印刷本との違いについて、ランダムに上げてみよう。

第1に、コストの検討においては、従来の常識をいったん措いて、著者から読者までのバリューチェーンを考えてみる必要がある。業界で嫌がられる言葉に「中抜き」というのがある。しかし、価値と価格の評価とバランスの上に商取引は成立っているのであって、デジタル化によって価値/価格の前提が変化すれば、新しいバランスに基づく契約条件が必要になるのは当然だ。それを透明性のある議論の上で構築できないと、知識情報市場は適正に発展出来ない。

第2に、常識では、本来最も重要なはずの著者原稿は、買取り原稿を除き、かなり機械的に10%前後の印税として扱われるのだが、著者にはコストを主張する権利がある。生活と知的生産の継続を難しくするようなリスクを被る存在なのだから当然だろう。E-Bookでは、著者には自主出版という選択肢があり、出版社が「編集作業」「マーケティング」で付加価値を提供しなければ、出版社に頼る必要はない。

第3に、コンテンツ制作において、コストも品質も、当事者のスキルや蓄積、アウトプットの質において10倍以上の開きがある。両者をかければ、コストパフォーマンスにおいて100倍の開きとなる。組版・印刷・製本ではいくら下手糞でも限度がある。酷ければ淘汰されるし、発注者の眼が節穴でもなければ頼むことはない。ところがデジタルサービスではピンキリの差はとてつもなく大きい。下手な業者ほど(要領も悪いので)高く請求する傾向もある。読者に請求できないことは言うまでもない。

第4に、オンラインストアの「手数料」についても、当たり前に30%などと考えないでいただきたい。そもそも、事前にいちばんコストをかけて脱稿した著者より多くを取る権利を主張するというのは、よほどの神経であり、確実に評価できる付加価値がないと出すべきではない。販売ノルマもなく、カタログに載せただけで手数料とは片腹痛い。本誌がやっているように、直販だってそう面倒なことではない。

第5に、バリューチェーンには必ず消費者(購入した場合は読者)を外して考えるべきではない。消費者は、500円、千円、数千円といった金額を出し、その分のリスクを負って購入するのだが、このデフレのご時世では、商品は厳しい目で選別する。本好きでなければ本は優先されることはなく、本好きであれば、別の本と比較される。満足すれば次の1冊につながり、しなければ版元との縁が遠くなる。だから消費者のコストとリスクを考慮せずに価格を論ずることは無意味だ。  (鎌田、09/01/2011)

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