デジタルメディアの「本体」としてのクラウド (♥)

シャープが9月15日、GALAPAGOSのオリジナル2機種(仮にG2と呼ぶ)の生産・販売を9月末日で中止すると発表したこと、それが「撤退」と受け取られたことの意味については、すでにE-Book 2.0 Forum(「進化せよ。ここがガラパゴス島だ!」09/19)とマガジン航(同加筆版)に書いた。ここでは重複を避け、補足する意味で、まずタブレット事業の戦略的意味について考えてみたいと思う。タブレットはクラウドあっての影で、ここでいくら心血を注いでも、成功は期しがたいということだ。そしてコンシューマ・クラウドと専用デバイスの最適な関係を築いたのがアップルとアマゾンである。 [全文=会員]

なぜ群雄は苦戦し、アマゾンのみiPadに対抗できるのか

不人気機種を打切って新機種に切替えることは、メーカーにとっては日常的なことだが、G2の場合はそうならなかった。それは最初から背負っていたものが重く、また出版において画面サイズが特別な意味を持っていたためである。アップルのiPadとiPad 2の間には堅固な一貫性が見られるが、シャープのG2と7型機(仮にG7とする)の間には大きな断絶がある。さらに、Android 2.2と2.3以降、とくに3.1 (Honeycomb)以降とは「クラウド」への対応がまるで異なる。G2はKindleやNook Colorと同じ、緊密なデバイス/クラウド・モデルなのに対して、G7はGoogle/Androidのクラウドに属する標準的なタブレットだ。出版界はこうしたことについて知識があるわけではないから、日本的信頼関係を保つには「事前協議」が必要だったと思われる。

タブレットの登場から1年半が経過し、書籍専用のE-Readerと汎用タブレットの違いは明確となった。E-Readerもタブレットも、専用あるいは汎用のクラウドストアを必要とするが、これまでのところどちらも専用型が汎用型を圧倒している。クラウドストアは、デバイスの違いを吸収し、専用デバイスを含めた複数のデバイスに、アプリを通じて一貫したサービスを提供する。ストアの位置づけはしだいに大きくなってきた。顧客が手にするのはデバイスだが、そのデバイスが交信する相手はクラウドストアであるから、ここがサービスを担う。KindleやiTunesを使ってみるとわかるが、ユーザーがサービスの品質(ユーザビリティ)を評価する際のポイントをきちんと押さえている。これは優れたデザインとともに経験と改善活動の賜物でもあるが、日本のオンラインストアは、まだそこが十分に理解できていない。

アマゾンやアップルをターゲットとしたメーカーやサービスは、もっぱらデバイスに注目したが、じつはクラウドサービスが「実体」であってデバイスは(いくら輝いていても)影のようなものでしかない。2011年はたしかにタブレットの年だったが、それは事前予想と大きく異なった形となった。サムスン、モトローラ、HP、RIMといった有力メーカーがいずれも躓き、喘いでいるのに対し、市場の注目は、まだ発表さえしていないアマゾン1社に集まっている。設計と製造が専門であるソニーも東芝も主役になれないのは、クラウドストアで実績がないためだ。2007年にアマゾンがKindleを出してもほとんど注目されなかったのは、設計・製造・保守などに未経験なためだった。4年を経て、市場は21世紀のデバイスが、インターネットの向こうにあるクラウドによってその価値を変える、じつに不思議なモノであることを理解した。アマゾンはクラウド・サービスにおいて、アップルに先行している。それがあれば、デバイスは二の次だ、とさえ考えられている。

Androidはビジネスモデルを描けず、イノベーションも簡単ではない

ユニークな技術を持っていたHPの場合を見てみよう。なぜHPはTouchPadを止めたのか。同社が買収したPalmとwebOSの関係者たちは、自分たちがタブレット・ビジネスに必要な重要な鍵の一つを手にしていると考えていた。webOSは、RIM/PlayBookに使われているQNX Neutrinoと同じく、とてもスジの良い技術で、iOSやAndroidより先進的で魅力的だ。これは多くの開発者が認めるところだろう。しかし、エコシステムを形成するには時間が必要だ。軌道に乗せるには3年はかかる。当たり前だ。1年で出来ることなら誰でもやっている。狭い入り口に図体の大きい企業が殺到すれば圧死者も出る。現在のAndroid市場がそう。

先進的技術の意味は、新しい入り口をつくり、新しい道(=市場)を拓けることにある。タブレットにおける新しいOSは、iOSやAndroidには満足に出来ない領域や、同じことをもっとクールなやり方でできることを発見し、アプローチしている。すべてのイノベーションは、見えないところで十分な時間をかけて生まれるが、これはテクノロジー・ビジネスに携わる人や、特に関心がある人しか知らない。ふつうの人にとって「イノベーション」は、一瞬の閃きであり「99%の努力」はどうでもよいのだから。金を動かす人間は「一瞬」が見たくて投資し、メディアもそれだけを煽る。ジョブズ氏のカリスマは、彼らを黙らせることができたが、アップルでさえ、iPod→iPhone→iPadの三段跳びを成功させるための99%の部分は大変だった。HPにはそんな経営者はいなかった。Palmもよく考えずに買った。その後に99%の部分の準備がまるで足りなかったことに気づいて狼狽したのだろう。今日の経営者の問題は、市場の声に耳を貸さない能力、あるいは市場を沈黙させる能力に欠けることだ。(つづく)  (鎌田、09/22/2011)

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