Kindle Fireの裏側

アマゾンの新製品発表(9/28)に関して、同社のKindle事業担当デイブ・リム(Dave Limp)副社長(写真=下)がシアトル・タイムズ紙に行っていたインタビューには、Kindle Fireに関して注目に値する論点が含まれていた。たとえば、$199という価格は「出血価格」ではない、EPUBはサポートしていない、OSは「Gingerbread (2.3)ベースのHoneycomb (3.0)変種」、iPadとは競合しない、Netflixアプリを搭載していること、などだ。アプリ内決済の問題など、iPadとの比較上問題となることは順次明らかにされていくだろう。

デバイスでもサービスでも利益を上げる

Fireの原価についてはiSuppliが部品ベースで約199ドルという推定を発表し、赤字はほぼ確実と思われているが、リムVPは、「それは私たちのビジネス観とは違う」と否定し、「デバイスでもサービスでも利益を上げ、それを持続可能にすることが株主に対する責任でもある。」とした。慎重な答えだが、これは

  • 採算ラインをかなり高く設定し(たとえば100万~200万台)
  • 台湾メーカーからの調達価格を他より安く抑えた

ことを意味しているものと考えられる。100万台以上をコミットすれば、部品ベースで100ドルに近いものとすることも不可能ではない。部品の中で最も高いのは液晶パネルとメモリだが、Fireのメモリは2GBと最低水準だ。2007年12月発売の初代Kindleでも利益は確保していたと考えられている。

「Gingerbread (2.3)ベースのHoneycomb (3.0)変種」

この表現は、オープンソースのAndroidを独自に拡張し、Googleがソースコードを公開していないHoneycomb相当品を開発したことを意味している。最新版ではないが、現在のAndroidアプリのほとんどが使用可能だ。リム氏も互換性を重視していると述べている。これは次のことを意味する。

  • Googleのライセンス(統制)は受けず、互換性はアマゾンが保証する
  • アプリ開発者はAndroidの開発環境をそのまま利用することが出来る

この「付かず離れず」というスタンスは、まだ成長途上のAndroid Marketに大きな影響を与える。膨大な顧客を擁するアマゾンの引力は大きく、開発者はGoogleよりもアマゾンを見て開発するようになる。それに、開発者はiPad (iOS)と同時に開発しなければならないから、Androidの方言には付き合いたくない。両手10本指(iOS)、片手2本指(Kindle)というタッチスクリーンの操作性の違いに対応するだけでも簡単ではない。

EPUBはサポートしない:外部環境・ファイルへの対応

外部ポートはUSB (とヘッドフォン端子)しかないが、という質問にリム氏は、Kindleと同様、Fireの外部接続はすべてUSBを通じて行うことを明らかにした。PCやMacと接続するとフォルダーが立ち上がり、他で購入したDRMなしのコンテンツ(たとえばiTunesの音楽ソース)をドラグ&ドロップで移せばFireで再生することが出来る。これはローカルだけでなく、クラウドでも対応する。他のデバイスのMP3音源や画像はこうして保存・利用することも想定されているようだ。

ではE-Bookはどうか。「EPUBはサポートするのか」という質問に、リム氏は「当社はサポートしない。」と答えた。これでアマゾンがEPUBをサポートするのではという観測は否定されたことになる。その代わり、デスクトップ級の強力なPDFエンジンを搭載し、書籍・雑誌に対応する。これを解釈すれば、アマゾンの認識は次のようなことであろう。

  • 今後ともEPUBファイルを受け入れ、自社でKindleコンテンツ化する
  • 商業的コンテンツは、ほとんどすべてがKindle対応になっている
  • EPUB仕様は、実用上問題のない範囲でKindleフォーマットに吸収可能

周知のように、EPUB仕様はHTML5/CSS3を土台としたEPUB3に移行しつつある。通常の欧文書籍に関する限り、EPUB2とKindleが使っているMobiの違いは僅かで変換も可能だが、たとえば日本語組版を含めたEPUB3をサポートするとなると、Mobiもそれに対応した拡張を実装する必要がある。アマゾンはEPUB3対応の実装をすでに行っている可能性が高い。つまり、Acrobat PDFではない独自のPDFビューワでいくPDFの場合と同様、EPUB 3対応のエンジンを開発してサポートするということだ。

出版社にとっては実質的な影響はない。アマゾンの独自仕様を気にする必要もないだろう。つまりアマゾンの独自フォーマットは、著者・出版社・読者がいちばん気にする文書構造の記述と表現に関することではなく、独自のWhisper Syncや図書館からの借り出し、DRM認証、SNSなど、もっぱらサービス・インタフェースに関連するものなのだ。アマゾンのロックインの仕掛けは巧妙だ。

アプリ開発者への条件提示は近日発表

Kindle FireとiPadの違いは、iPadがPCを代替することも可能な全方位タブレットであるのに対して、Fireはもっぱらメディア・コンテンツの消費に特化しているということだ。リム氏はそれが$500と$200という価格の違いでもあり、「おそらく比較の対象にはならない」と述べている。もちろん、額面どおりに受け取る必要はない。Fireは現在のiPadの用途の大半をカバーしているからだ。Fireはフルブラウザとメールソフトを搭載し、メールソフトではWordとExcelファイルを読むことが出来る(PowerPointは不明)。

外部のネットサービスとの関係では、Netflix、Pandora、Facebook、Twitterに関してはアプリの搭載で合意した、としているがその他については近日中に明らかにされるという。つまり有償サービスを受け入れる場合には売上の一部をシェアするのだが条件はまだ提示されていない。アップルiOSでのアプリ内決済を経験したアマゾンが、どんな条件を提案するかが注目される。  (鎌田、10/10/2011)

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