WebとE-Bookに関連して数々の技術的アイデアやツール、サービスを世に出しているヒュー・マグァイア氏とそのグループは、オープンソースのブログCMSとして(本誌も含めて)世界的に使われているWordPressをプラットフォームに使ったPressBooksというE-Book制作環境のベータ版をリリースしたことを明らかにした。EPUB、PDFのほかInDesign用のXML出力にも対応し、印刷用のファイルへの転用にも配慮している。
PressBooksは、オライリー社から出版したマグァイア氏の著書 'Book: A Futurist's Manifesto'のパート1でテストしたほか、ハーバード・ビジネスレビュー出版の新刊ショート・コンテンツでも使用され、高い評価を得ている(プレゼンテーション資料はこちら)。
Webベースの制作の利点は数々あるが、基本的にはこれをプラットフォームとして出版プロジェクトを進め、電子と紙の両フォーマットのための「中間ファイル」を作成し、貯めておけるということに尽きる。具体的には、(1) 複数のライターと編集者によるオンライン編集環境を、(2) 無償あるいはそれに近いコストで利用でき、(3) テキストや図、表などの管理ができ、(4) デザインのカスタマイズが容易であることがあげられる。WordPressはXHTMLとCSSというベースをEPUBと共有しているので、メタデータ管理機能などを追加すればE-Bookへの対応はまったく問題ない。さらに印刷用のCSSを定義しておけば、レイアウト済みのPDFファイルを出力できる。PressBooksでは、出版品質の印刷用ファイルの元データも作成できるので、入力、編集、制作の環境がスムーズに統合される。
Webというと公開を連想するが、これは公開してもいいし、グループだけで共有しても、有償にしても、完全にプライベートにしてもいい。現在のE-Bookの作り方の主流は、フィルム出力用の版下データを変換するものだが、E-Bookのほうがシンプルで制約も多いので、多くのレイアウト指定を慎重に外す作業が必要になるほか、CMYKのカラー原稿がRGBにクリアに変換できないなど、余計な工程が必要になる。現在のE-Book出版のコストは、この余分な工程による部分が少なくない。出版社の規模やリソースに依存しないことからも、Webベースの出版がデフォルトな編集・制作環境となるのは必然であると言えよう。 ◆ (鎌田、11/24/2011)