筆者の印象では、iSuppliの予測は短期には強いが、数年のレンジを越えると弱い。それに文字通りサプライサイドからの分析なので、ライフスタイルや個別市場の分析はラチの外となる。これでは大きな市場の地殻変動を感知できない。これらは供給側より需要側を見てはじめて理解できることだ。タブレットと同様、E-Readerも需要側の分析が大きな意味を持つ段階だ。今回のレポートも、1年以上先の予測はいただけない。[全文=♥会員]
ここ5年はデマンドサイドで地殻変動が続く
2つのものを単に機能だけで見るのは間違っている。モードが違えばカテゴリーも違うのだ。スポーツカーとSUV、ピックアップトラックは、しばしば同じユーザーの同じ目的のために使われるが、やはりカテゴリーの違いには意味がある。しかも、自動車の場合には一人で何台も所有するのは容易ではないが、タブレットとE-Readerなら10万円で両方を購入でき、置き場所にも困らない。筆者がiSuppliの予測を信じないのは、次の3つの理由による。
第1に、Kindle Fireによって影響を受けるというのは早計だ。タブレットと専用E-Readerの関係はまだ証明されていない。消費者はiPadとKindleを別の用途のものと考えた。Kindle FireはiPadの用途の一部を確実にカバーし、低価格で実現したものだ。7型という画面サイズは、本格的なタブレットというよりはE-Readerに近いが、しかしiPadと同様、雑誌や新聞、絵本などは読んでも、普通の本を普通に読む場合には、5千円に近づいた電子ペーパー製品や、すでに2万円台で買えるカラー電子ペーパーを選択する人は多いだろう。タブレットはビデオやゲームという確実な用途があり、多くの人はタブレットで本を読もうとはしないと筆者は考えている。ここまで安くなった以上、これは読むという行為に関するマインドセットの問題だ。
第2に、たしかに北米市場は5年もすればひと通り普及し、あとは買替需要に移行すると見るのは常識的だろうが、それまでには本の供給は電子が主体となり、紙では(PoDと古書を除き)入手が困難なタイトルが増える。それにより、E-Readerは一人一台ではなく、一人数台という時代に移行するだろう。また、欧州や中国、インド、南米など、まだ未開拓で、離陸していない国々も、市場も北米を追って、やはり爆発的に普及する段階を迎える。E-ReaderはPCと同様な、21世紀の基本的、汎用的なデバイスである。短期に飽和するようなものではない。
第3に、教育市場が示すように、<文字+αのデジタルコンテンツ>の世界は、商業出版より規模がはるかに大きく、これは10-12インチの“大画面”E-Readerの市場となる。これらのアプリケーションには、医療などの業務用を含むビジネス・ドキュメント、マニュアルなどのテクニカル・ドキュメント、科学技術文献、デザイン・ドキュメントなどが含まれる。これらは現在、PCとプリントアウトで利用されており、オフィスコストのかなりの部分を占めているが、E-Readerはそれら(つまりプリンタ、FAX、ファイルケース…)を統合することができる。ユーザー管理やセキュリティ管理が可能なので、企業はかなり急速に大画面E-Readerによる電子文書中心にシフトするだろう。これは別の市場と考えられるかもしれないが、しかし実際にはカラーLCDタブレット以上に、「読書専用E-Reader」に隣接している。
iSuppliによるE-Reader市場は、商業出版書籍用E-Readerに関してのものであり、実際にはこの数倍の潜在市場が10年以内に立ち上がっていくと考えるべきだ。E-Readerは商業出版のためにだけあるわけではない。 ◆ (鎌田、12/20/2011)
参考記事
- E-Readerは108%の高成長もその先はどうか? (本号記事:2011/12/22)