米国はNYにある非営利団体、J.G.クーニー・センターが、昨年夏から秋にかけて、3-6歳児を持つ24の家族を対象に行った調査によれば、ほとんどの子供がE-Bookを好み、理解内容に差はない、という結果が出た。拡張E-Bookと在来型E-Bookとの比較もされているが、対話型のコンテンツの詳細を覚えていた者は、在来型で読む場合より少なかった (Digital Book World, 01/09)。 大きな潜在性を持ちながら、未開拓ともいえるこの分野の課題を考えてみた。 [全文=♥会員]
子供は紙の本と電子本のどちらを好むだろうか、そして読書体験はどう違うのだろうかという疑問は、多くの出版関係者が抱いている。児童書出版社で組織する児童書評議会(Children’s Book Council)のニコル・デミング氏によれば、本格的な調査はまだ行われていないという。散発的に行われる調査が示す結果は、子供はE-Bookを好む、というもので、これは子供がデジタルコンテンツの重要なマーケットになることを示していた。しかし、デジタル嫌いは「体験」の違いを過大に言い立てているので、時間はかかるが、実証的・客観的調査を重ねていくしかない。今回のクーニー・センターの調査は、予備的なもので、より認知科学的に厳密で規模の大きい調査を継続していくという。
「iPadで本を読む気にさせられれば、もう勝ったようなもの」とセンターのカーリー・シュラー氏は言うが、このデバイスの“読書促進効果”はかなり高いようだ。逆に対話型コンテンツの場合には、タッピングなどの操作に幻惑されて内容の理解に進まないことが多いという。つまり、紙とその電子的対応物は体験においてほぼ等価だが、対話型の場合には、UIデザインによって結果が左右されそうだ、ということが言えるのかもしれない。この場合、紙か電子かという違いではなく、従来型の本か対話型の本かという違いが問題ということになる。印字(表示)された活字を読み、絵や写真を見るのならば、紙と電子の違いはないということは、成人を対象とした調査で確認されている事実だ。
2011年の最初の3四半期に販売された児童書(青年向けを除く)の7.4%をE-Bookが占めていると推定されているが、これは一般書よりかなり遅い(Bowker社による)。E-Readerが子供にまでは及んでいないためでもあるが、タブレットも含めたデバイスの増加で、児童書のデジタル化率も2012年に倍となるのは確実視されている。電子化児童書で先頭を切っているのは、14のアプリを出版したスカラスティック(Scholastic Inc.)や、25のアプリと160タイトルのE-Bookを出版したセサミ・ワークショップ(Sesame Workshop)など開発インフラを持つ出版社に限られるが、売上と利益率がよいので、小規模出版社にまで拡大しつつある。
子供のデジタル読書にとっての障害は、権威ある機関からの推薦とリーダの普及だろう。消費者は子供である以上に、保護者だ。子を持つ親はデジタルが子供の読書体験(例えば就寝前の読み聞かせなど)の機会を奪うといった批判に影響されやすい。それはTVやゲーム以上に難しい部分もある。権威ある機関の実証データとお墨付は、市場の急拡大の決め手とされている。しかし、100~500ドルのデバイスへの先行投資を必要とするデジタル・リーディングには、貧困層と中流以上の格差(デジタル・デバイド)を拡大するという懸念もある。これは教科書タブレットの無償配布などで解決する可能性もある。
コミュニケーションと結びついた読書体験については、テクノロジーでサポートすることが可能だ。A Story Before Bedは、本を読む音声を録音/録画して送れば、離れた子供にも読み聞かせができるもので、貴重な体験を奪うのではなく、逆に日常化するのに役立てることが出来る。テクノロジーは(使いようで)子供の知能や人格の形成においてプラスにもマイナスにもなりうるものなので、非営利団体や公的機関による調査や、推薦が社会的なインフラとなるだろう。 ◆ (01/12/2012)
参考記事
- For Their Children, Many E-Book Fans Insist on Paper, 11/11/2011
- Are Children’s E-Books Really Terrible For Your Children?, Jeremy Greenfield, Digital Book World, 11/21/2011