米国に約200店舗を擁する第2の書店チェーンBooks a Million (BaM)は、B&Nに続いてアマゾン出版の印刷書籍を店舗で扱わないことを明らかにした(通販で扱うかどうかは不明)。また、カナダ最大手でKoboを楽天に売却したことでも知られるインディゴ社も、この動きに参加することを表明した。アマゾン出版へのボイコットは合計で北米約1,000店舗あまりが「参加」する異常事態だ。ところが、それはオンラインの巨人が地上の小売店舗に進出することで無効化されそうだ。それはどのようなものか。[全文=♥会員]
本屋が売らないアマゾン出版の本
アマゾン出版の立ち上げへの準備は、ベテランの出版人、ラリー・カーシュバウム氏(写真)を副社長に迎えて昨年に本格化したものだが、デジタル版をKindleに限定するほかは従来の出版と変わらない。シアトルとニューヨークにそれぞれ本部を持ち、印刷本はホートン・ミフリン出版社の協力を得て流通に流している。アマゾンが何のために出版事業を始めたのかは定かではないが、著者と読者の間にある、バリュー・チェーン上の一切の存在はもはや不可欠ではない、という原理的発想から、その「唯一の仲介者」となろうとしたものか、それとも巨大メディア企業の傘下にある大手出版社による定価販売への対向か。一般的には後者であると考えられてきた。米国の書店は、大手と独立系に分かれるが、少なくともオンラインも兼営する大手は、一致してアマゾン・ボイコットを始めたことになる。北米3社の意図は、直接アマゾン(の出版物)へのダメージを狙ったというよりは、アマゾンとの独占契約に傾いた著者、エージェント、出版社に対する牽制であると憶測されている。
消費者に影響を与える奇矯な行動を大企業が取るからには、それなりの大義が必要だが、この措置にはそれがない。「アマゾンの行動は、読者と書店業界の長期的利益に反するものだ」という主張は、ボイコットという反書店的行為を正当化しない。また実効性も疑問だ。アマゾンは他の大手書店チェーンを合わせたより多くを販売しており、紙とデジタルを合わせた全書籍市場でのシェアも5割に近づきつつある。もちろんアマゾンの書籍は図書館にもある。直接的影響は、消費者が彼らの店舗では立ち読みして買うことが出来なくなるということだけだ。アマゾンと契約する著者の本のボイコットという、書店の自傷行為にしかならない。著者を脅すことには成功したとしても、「読みたいものがあっても買えない」消費者を怒らせて得られるものがあるとは思えない。
出版社としてのアマゾンが、E-BookをKindleプラットフォームでしか提供しないというのは、B&NやKoboには提供しないことを意味するが、これが印刷本のボイコットに値することとはとうてい思えない。アップルはiBAオーサリング・ツールのユーザーに対して、iBookstoreを使っての出版を求めている。チャネルの単純化と効率化は止められない。(下の写真は最近のBloombergアマゾン特集の表紙。中身はそうセンセーショナルなものではない)
アマゾン実店舗のシナリオ
こうした動きに対して、アマゾンの選択は、静観するか、譲歩してE-Bookをライバルにも提供するか、あるいはまた自らリアルの店舗販売に進出するか、という3つになるだろう。著作者が書店で入手可能になることを強く望むのは明らかなので、ボイコットは有名著者をアマゾン出版から遠ざける可能性がある。それでは事業の目的の(少なくとも)相当部分が失われてしまう。また、この場合の「譲歩」は同様に考えにくい。すると「アマゾンショップ」の可能性が浮上する。店舗展開にはコストがかかるが、消費者との接点が拡大し、Kindleシリーズの普及には有効だ。独自店舗を持つようになったアップルの前例もあり、街中の存在となる意味は小さくない。そしてもう一つ。税金問題がある。
財政難の米国各州は消費税が免除されているオンラインショップへの課税を可能とする法制化(別名アマゾン税)を進めてきたが、集配センターを店舗扱いして課税する体制が出来たことで無店舗にこだわる意味がなくなった。これまでにも倒産したボーダーズの店舗を買収するのではという噂があったほどだ。無店舗の利点が喪失した以上、地上でも店舗を構えることはむしろ自然なのかもしれない。そして、ジェフ・ベゾスCEOは、合理性がある限り、あらゆる常識を超えたことをやってきた人物だ。オンラインの限界を知っており、地上でのロジスティクスを競争力の源泉としているところは、いわゆるオンライン企業とは異なる。生鮮品同日配送のAmazon Freshもそうしたインフラから生れた。ではどんなショップが考えられるだろうか。
起業家でベンチャー・ブログを運営するジェイソン・カラカニス氏は、次のシナリオを考えた(Launch, 12/07/2011)。
- ショウルーム型:来客はその場で商品をオンライン購入し、自宅で受け取る。在庫を持たないので、消費税は課税されない可能性が高い。
- メディアショップ型:書籍、DVDなど場所をとらない商品を販売し、顧客はその場で商品を受け取る。
- 古書店兼図書館型:Primeメンバーのためのブック・オフのようなイメージか。
- オンライン補完型:自社ブランドの廉価品(例えば紙オムツなど)のみ在庫し、販売する。
カラカニス氏によれば、21世紀のビジネスは「チャネルをぶっ潰す」もので、アップルもGoogleもご他聞に漏れない。ほとんどの商品を扱うアマゾンのF2Fショップへの進出は、実質的にウォルマートを脅かすものだ。アマゾンはこれまでダンピングを武器に市場を奪ってきたが、ついにはウォルマートまでがターゲットに収めることになるというのだ。これは十分に説得力がある。
今春にもシアトルで開業、今秋には全米展開!?
2月4日、Good eReaderのマイケル・コズロウスキ編集長がさらに確度の高い情報をもたらした。アマゾンが今春のうちに(本社のある)シアトルに試験的な小売店舗を開設するというのである。これはチェーンストア展開の可能性を探るもので、当面は小規模なブティックとして、Kindleシリーズ(とアクセサリー)、自社書籍および高付加価値商品の販売を行う。すでにダミー会社を通じて準備を進めてきたようだ。コズロウスキ氏は、アマゾンF2Fストアの全国展開は今秋、Kindle Fire 2の発売に合わせたものとなると推測している。
Kindle Fireは、本の購入者の外側の一般消費者をも対象としているが、それにはまだオンライン・ショッピングの習慣を持っていない人々に浸透しなければならない。Kindle Fireの販売には実店舗が必要だった。そのために昨年11月から大手量販店と提携しているが、これまでの全販売台数の3分の1がサードパーティ経由とされている。この経験も、アマゾンに小売店の力を再認識させただろう。今秋に全米規模で展開される店舗がどのような形態をとるかはまだ定かではない。チェーンストアになるかも知れず、アフィリエイトのような形を取る可能性もある。しかし、おそらく確実なことは、これが実験的な(といっても最終の)ものであり、
- Kindleなど自社商品を販売し、
- アマゾンの各種サービスと結びつき
- オンラインと連携がとれ
- B&N(600あまり)よりは数が多く
- 可能な限り節税できる
ものが追求されている、ということだ。これらは、B&Nなどによるボイコットとは無関係に進めてきたものだろう。独自の物流インフラがあればこそ、それは可能になる。B&Nは自分が相手にしているものの大きさを知らなければならない。 ◆ (鎌田、02/08/2012)