B&N [»関連]は1月28日までの13週の四半期業績を発表し、同時にNookタブレットの廉価版と値下げを発売した。四半期決算では、実店舗の収益回復とともにNook事業の拡大および赤字という2つの傾向が浮かび上がっており、昨年末に同事業の分離を示唆した背景を示すものとなった。総売上は5%増の24.4億ドル、利益は5,200万ドルで、前年同期の6,060万ドルから減少した。[全文=♥会員]
増収と赤字幅の拡大:このままでは失速
Nook事業の赤字は、売上の増加を上回る投資、販促費によるもので、前年同期の5,050万ドルから2倍に近い9,370万ドルに拡大。しかしデバイスとコンテンツを含めた事業の売上は32%上昇して4億2,000万ドルとなった。他方、実店舗のほうは過去5年間の最高を記録し、総売り上げは2%増の14.9億ドル。比較可能な店舗ベースでは2.8%増となった。税引き前利益(EBITDA)は16.5%増の2億690万ドルと大きく改善した。店舗での玩具とゲームの売上が二桁の伸びを示したが、何と言ってもボーダーズ社の倒産で、店舗数が減った分の売上を吸収したことが大きい。リンチCEOはまた、Nookユーザーが拡大すると同時に、店舗に足を運んでアドバイスなどを求める顧客が拡大してシナジーが生れていると述べている。大学教科書事業は、販売モデルから「レンタルモデルへの移行のため」3%減。
Nook事業は、成長部門であると同時に負担ともなっていることを示しているが、問題はそれが、(1)アマゾンによって強いられたゲームであり、(2)赤字幅は拡大傾向にあり、(3)かなりの期間、継続する可能性が強い、ということだ。書店の業績改善はボーダーズの消滅という一時的な要因によるもので、この業態の規模は縮小している。仮にNookを分離しても、後に残るのは長期衰退事業であり、同時に実店舗を背景にするNookの強味も半減してしまう(つまり事業の価値は下がる)。印刷本のオンライン販売はアマゾンより後発で冴えないが、分離するのはどちらにも悪影響を与えるだろう。
結局、B&NとNookが不可分の関係にあることを前提とした上で、アマゾンと対抗するための資金を提供するパートナーを求めるしかない。それはかなりの規模が必要で、すでに資本参加しているリバティのようなメディアビジネスか、Googleのようなネットビジネスということになるだろう。候補はあまり多くない。アマゾンのKindleは、同社の戦略の中軸を担うものへと成長しており、5年間は利益を出さないことを決断しているとも言われるから、同じ土俵で競争すると利益は期待できないためだ。
問題は拡大し、体制再構築は不可避に
Nookデバイスの廉価版発売は、昨年11月以来のKindle Fireとのシェア争いにおける新局面となるもの。$199でメモリを減らしたNook Tabletの8GB版を出し、Nook Colorを$169に下げたが、昨年150万台あまりを出荷したTabletは販売での苦戦が伝えられる。値下げはその結果だろう。アマゾンのようにクラウド・ストレージを持たないNookの場合、8GBでは不十分なので、ユーザーはmicroSDカードを追加購入しなければ、コンテンツの利用に制約を受ける。
Nookタブレットの弱点は、あくまでアップルとアマゾンという規格外の企業と比べた場合だが、アプリストアが弱いことだ。約1,000本ほどしかなく、iPadはもちろんアマゾン(昨年末で約4,000)に比べても見劣りする。アプリの整備は資金と人材を要するもので、アマゾンはマイクロソフトからWindowsタブレットの開発コミュニティの責任者を引き抜くなど、アップルをターゲットとする体制を築きつつある。B&Nでは完全に手に余るので、Googleなどがパートナーとならない限り、差はますます開くだろう。
昨年からの懸案の一つは、Nookの海外展開だが、今回の決算発表では具体的な目標などは示されなかった。アマゾンはもちろんKobo/楽天と比べても、行動は消極的だ。E-Book市場は急速にグローバル化しており、放置すれば遅れを取り戻すことは困難になると思われる。ここにも投資資金不足が影を落としている。
地上での企業規模は、Webではほとんど通用しない。これはソニーなど日本企業にも言えることだが、ビジネスの主戦場がWebにある以上、教科書などのニッチを拡大するとともに、提携などでWebでの比較優位と安定したビジネスモデルを築き、ユーザー体験を地道に改善することに集中する必要がある。同じくアマゾンの圧迫を受けている、卸企業のイングラムやベイカー&テイラーと提携することもその一つだ。年内の体制再構築は不可避と思われる。 ◆ (02/23/2012)