オライリーがニューヨークで開催しているTools of Change for Publishing (TOC 2012)で、インクリング社(Inkling)のマット・マッキニスCEOが、iPadのための拡張E-Bookオーサリング・ツールInkling Habitatを発表した。オブジェクト指向のコンテンツ構造をサポートした新しいコンセプトで商業出版社の高度なニーズに対応する。Habitatは提携出版社でまず使用され、一般には今年後半に提供される。アップルのiBook Author (iBA)などに対抗するものとして注目される。
藍より青し:新コンセプトの本格的オーサリング・ツールを無償提供
サンフランシスコのインクリング社は、アップル出身の起業家マッキニスCEOによって設立され、マグロウヒルやピアソンなどの大手出版社と提携し、主として教育用の拡張E-BookタイトルをiPad向けに出版している。昨年11月にリリースした料理本アプリも話題を集めた。最近1,700万ドルの資金調達を行い、メディアITベンチャーの中では最も注目される存在の一つになっている。
Habitatは、ガイデッド・ツアーや3D表示、クイズ、HDビデオなどを含む対話型コンテンツの開発環境で、Webソフトウェアのような感覚で出版/更新を容易に行うことが出来る。従来のE-Bookオーサリングは印刷時代のページ・モデルを前提としていたが、Habitatはソフトウェア・モデルを採用しており、開発とメンテナンスの生産性が画期的に向上したものとみられる。同様のコンセプトは20年以上前のインターリーフ社(Interleaf)のActive Documentでも採用されていたが、動的コンテンツの時代になって復活した。
Habitatは無償のクラウド・ベースのプログラムであり、制作したHTML5コンテンツは、iPadおよびWebで出版することが出来る(Web版は今年後半のリリース)。複数の編集・制作メンバーによるコラボレーションも可能で、NYと東京のエディターが同時にアクセスして作業が出来る。制作物の各バージョンは保存され、必要があれば復帰が可能。
ユーザーを拘束しない自由なビジネスモデル
注目のビジネスモデルだが、プログラム(の使用)は無料だが、出版社は制作したコンテンツの出版に際し、インクリング社のストア(iPadアプリおよび同社のサイト)を通じて販売することを承諾しなければならない。しかし、iBAとは違って、出版社のサイトを含む別のチャネルで販売することが出来、その場合でもインクリングは手数料を取らない。インクリングは、インドの大手コンテンツ制作会社であるアプタラ社(Aptara)とイノデータ社(Innodata)と提携してHabitatを使った開発を行っており、多くのフィードバックを得たという。つまり、出版社に対しては、オフショアのオーサリングサービスも提供できる体制を築いている。これは新しいビジネスモデルを用意していることを意味する。
Habitatは、現在圧倒的な市場シェアを持つiPadだけでなく、Webまでターゲットとしたことで、事実上あらゆるデバイスに対応した。HTML5はEPUB3で採用された日本語組版仕様を含んでいるので、そのまま多国語に対応すると考えてよいだろう。アップルiBAを意識して、より透明性の高いフォーマット、オープンなビジネスモデルを採用したことも特筆すべきだ。これにより、以後登場する製品は、かなり廉価なインストール製品か、拘束の緩い無償クラウド製品以外は考えられないようになるだろう。 ◆ (鎌田、02/15/2012)
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