活発な市場では市場調査も活発に行われる。しかし、リーディング・デバイスとなると、PCの出荷データのような客観性に乏しく、数字はすべて推定なので、過去の数字も明日の数字も、仮定と仮説に左右されて大きく揺れる。それは基本的にタブレットとE-Readerの関係をどう見るか、というところから来ている。当初、多くの人がiPad(カラー汎用機)はKindle(白黒専用機)を食うと考えた。事実はそれに反したが、Kindle Fireの登場によって、E-Reader衰退論が復活してきた。[全文=♥会員]
タブレットとE-Reader:共存かタブレットの勝利か
印刷本とE-Bookのカニバリ(共食い)論は有名だが、もう一つ根強いのがタブレットと専用E-Readerのカニバリ論。これらはともに一面を持って比較していることが共通している。周知のように、本誌は一貫してこれらのカニバリを否定してきた。別の次元で考えているからだ。しかしこれが誰の目にも明らかになるのは数年かかりそうで、他方で唯一アマゾンだけが正確な数字を持って市場をリードしているのが何とももどかしい。
ゴールドマン・サックスのアナリスト、ヘザー・ベリーニ氏は1月はじめ、非Kindle Fire (Non-KF)とKFという点に注目したレポートを発表した(Forbes, 01/09)。それによるとNon-KFはQ4-11-Q1-12で44%下落し、年間出荷は2500万台と同社の前の予想を1000万台下方修正した。KFは1,920万台と2000万台に近い線を予想。他方、バークレイズ・キャピタルのアンソニー・ディクレメンテ氏は、それぞれ2,350万台と1,530万台を予想、かなり離れた予想をしている。同氏は、一部でカニバリ現象はあるものの、初心者はKindle Fireを選び、本だけでなく多くの種類のコンテンツを購入すると予想し、共存説を主張した。
B&Nの四半期決算で、E-ReaderのSimple Nook Touchが計画を下回り、Nook Colorが好調と発表されていること、そしてKindle Fireが500万台レベルの出荷となったことで、E-Reader衰退論は力を得たようだ。しかし、どうも投資アナリストは、読書端末としては相変わらずE-Readerの優位が続いていること、タブレットがすでに世界商品なのに対して、後者の普及は北米~英語圏中心であることを忘れる傾向がある。また、タブレットはメールやFacebook、ブラウジングに使われることのほうが多いが、E-Readerは読書にしか使われないことも、簡単に見落としてしまう。
Kindle vs. Kindle Fire
IDCが最近行ったタブレットの世界出荷動向調査では、2011年第4四半期(Q4)に56.1%増の2,820万台となったとしている。Kindle Fireは470万台でシェア16.8%を確保、iPadは1,540万台の54.7%に低下した。B&Nは3.5%でサムスンとパンデジタル(Pandigital)の間に食い込んだが、昨年よりシェアを1ポイント落とした。他方で、急減速したとの観測も出ている専用E-Readerは、価格の低下と北米以外での需要増に支えられ、予想を超える1,070万台を達成、Q3の650万台をも上回った。IDCではこの傾向が2012年も続くと考えているが、Q1は740万台に減速を見込んでいる。
信用度はだいぶ落ちる台湾のDigitimes (03/05)の今月初めの推定では、Q4が900万台。Q1は僅かに200万台を想定していた。IDCとの差は、Q4で200万台、Q1では500万台と途方もない開き。これらはいずれもアマゾンやアップルなどメーカーの発表数字ではなく、調査会社が製造メーカー(彼らも正確な数字を明かさない)に近い筋などから間接的に入手した数字をもとに推計した大雑把なものだ。これをもってKindle Fireが白黒E-Readerを食ったとか、タブレットのE-Readerとの力関係が変わったと即断することはとてもできない。
両者は明らかに違う。SUVと乗用車どころではなく、トラックと乗用車くらいの違いだ。リーディングデバイスとして考えると、専用E-Readerとタブレットとの関係は、タブレットとスマートフォンの関係に似ている。つまり利用シーンで重なる部分があったとしても、別のものということだ。 ◆ (鎌田、03/14/2012)