『ハリー・ポッター』シリーズE-Book版が3月27日、Pottermoreから刊行・発売された。Kindleの購入ボタンは一時停止し、ファンが殺到していることをうかがわせている。前例を破り、アマゾンとB&NなどのストアはPottermoreサイトで購入手続きを行うよう導いた。手数料などの契約の詳細は明らかではないが著者側が管理するのは画期的。そのほかにもPottermoreは多くのことを成し遂げた。DRMフリー版(EPUB)のダウンロードを可能にし、図書館には5年のライセンスを発行している。これが作家と出版社のデジタル版権をめぐる交渉に影響を与えることは必至だ。 [全文=♥会員]
購入にはPottermoreのアカウント。DRMフリーは初の快挙
『ハリー・ポッター』は、ソニー、Google、アマゾンおよびB&Nのサイトから読むのだが、手続きは作家が運営するPottermoreのサイトで行う。これにより読者をメンバーとして掌握できる。ユーザーはPottermoreのアカウントを登録し、次に各サイトにログインする。しかし、アップルはこの方法を認めていないようで、iTunesで読むことは出来ない。Koboはなぜかリストから外れている。価格は最初の4点が約8ドル、後の3冊が12ドルほど。ペーパーバック版と同等なので、期待されていたサプライズはなかった。おそらく、印刷版を販売しているブルームズベリー(英)やスカラスティック(米)などに配慮したものだろう。
しかし、DRMを外したことは大きな前進だ。DRMは、KindleなどのDRM管理サイトからダウンロードするコンテンツには適用されるが、ユーザーはDRMフリー(電子透かし付)のEPUBバージョンをダウンロードし、最大8つのデバイスに同時に表示して読むことが出来る。アマゾンは出版社が望むなら喜んでDRMを外すと表明していたので、Pottermoreが各ストアにDRM付を要請したのは意外と受け取られているが、電子透かし付のE-Bookを他のストアでアップロードできないためと説明されている。ともかく、これだけのコンテンツからDRMが外されたことも前例がない。DRMを外すことは、『ハリー・ポッター』コミュニティが、Calibreなどの標準的なEPUBリーダでソーシャル・リーディングを自由に行えることを意味する。SRを若い世代が体験することは、将来の市場に大きなインパクトを与える可能性が強い。
Pottermoreは企業だが、実質的にJ.K.ローリングとイコールだ。『ハリー・ポッター』E-Bookは、最大の「自主出版」プロジェクトで、作家が出版社も書店も飛び越えて、直接読者と結びついたことを意味する。これは出版社にとってかなり深刻な意味を持ちそうだ。有名著者がE-Bookの版権を手放さず、自主出版するケースが増えるならば、大手出版社は甚大な損失を被ることになる。短期的には版権料の値上げを意味することになり、版権市場に変動がある可能性がある。
大手出版社が図書館のE-Book貸出しに厳しいのに対して、Pottermoreは5年間の期限付きながら貸し出しを認めている。これは紙の本の“耐用年数”と同等の期間を想定したものと考えられるが、ハーパーコリンズ社の(1年~1年半を想定した)26回制限や、ランダムハウス社のプレミア価格よりは合理的で公正と考えられる。◆ (鎌田、03/29/2012))