「デジタル広告モデル」を待望する米国新聞業界 (♥)

メディアとジャーナリズムに関する米国のシンクタンク、ピュー・センター(Pew Research Center) [»関連]が行った詳細な調査研究で、ニュースメディアはいまだにデジタルメディアから十分な収入を上げられていない現状が明らかになった。1ドルのWeb広告を得るたびに、7ドルの印刷広告が失われている。消滅を待つだけの経営者も少なくない。しかし、企業によってバラつきがあり、一部はデジタル広告モデルを軌道に乗せている。問題は長期安定が続いた業界の「惰性」だけのようにも見える。[全文=会員]

経営の内部に入った初の本格的調査研究

Project for Excellence in Journalismと題された今回の調査は、13の新聞社からの詳細な内部資料と各社毎の複数の経営幹部への突っ込んだインタビューに基づくもの。全体として新聞業界復活のための収益モデルの確立は停滞しているものの、一部の新聞社は業界平均より成功しており、前進の兆しを見せているという。

デジタル収入が印刷媒体広告の喪失を補うのは、経営者の予想より遥かに困難で、それどころか出血は広がっている。印刷媒体の黄金時代に染み付いた「文化的惰性」が主な原因とみなされており、ほとんどの新聞がデジタル収入源のための経営努力を怠っているとされる。逆に言えば、努力しだいで将来の成長余地は大きいということだ。経営者は新聞販売店の減少が続くことで多くの新聞が廃刊し、生き残った新聞は印刷版の発行を週数回に減らすことになると見ている。新聞業界は従容として衰退を受け容れているのだろうか。

しかし、企業による差は大きく、消滅に向かっていると考えるしかない新聞もあれば、経営者と社風によっては、デジタル販売努力に成果を挙げている新聞もある。調査はまず6社・38紙の詳細な(匿名)ケース・スタディの結果(確認済)を、別の7社の経営者に提供し、自社の位置関係を認識してもらった上で同様のインタビューを行うという2段階で行われた。これは、インタビューから最大限の公平・率直な考えを引き出すための手法で、通常の商業的調査では使われることはない。

座して消滅を待つか広告事業の再構築に賭けるか

USA Todayなどを少数の例外として、都市圏を対象とする米国の新聞は発行部数が少ないが、今回の調査対象でも22紙が2.5万部以下、7紙が2.5~5万部、9紙が5万部以上で10万部以上はうち3紙だった。収入源は地域の広告なので、インターネットによる減少は著しい。Webで1ドル得るごとに7ドルが失われている。最も楽観的な予想では、数年でバランスするというのもあるが、あり得ない(つまり消滅を待つだけ)という新聞社もある。デジタル広告収入は必ずしも上昇しているわけではなく、50%あまり上昇している社と減少している社が混在している。10%の確率で新しいビジネスモデルに賭けて失敗すれば廃業を早めることになる。消滅を急ぐことはない、という空気が支配的なようだ。衰退産業というのはそういうものか。

デジタル広告モデルは、「看板」型から、ユーザーのプロファイルやネット上での振舞いによってターゲットを絞り込むタイプに移行している。ローカルなニュースメディアは人々のプロファイルやコンテクストを収集する最も有力な手段であると考えられており、事実成功している新聞社もある。しかし、全体としてみれば新聞社が個別にデジタル・マーケティングのスキルと経営センスを獲得するのは困難でもある。存続の可能性としては、(1)広告プラットフォームを構築・展開したメディア・グループによるシンジケート化、(2)モバイル広告ビジネスなど他産業による再編成というどちらかだろう。

米国の新聞ビジネスは基本的に「地方紙」とそのネットワークで成立しており、それぞれ広告事業を主要な経営基盤としている。他方で日本は複数の全国紙がマスメディアとして成立し、購読と広告がバランスしている。しかし、どちらがデジタル移行に有利かといえば、米国である。高コストな印刷と宅配サービスに依存する日本の全国紙のビジネスモデルが長期的に維持できなくなることは明らかだ。デジタル広告ビジネスは到達読者数ではなく、より複雑なコンテクストを扱うのだが、地域も関心も限定しない不特定多数を相手にした広告は費用対便益が悪化していく。  (鎌田、03/08/2012)

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