ランダムハウス社が図書館向けE-Book大幅値上げの波紋

米国図書館向けのE-Bookの提供継続で合意したランダム・ハウス社(RH) [»関連]は3月2日、販売価格を最大3倍に引上げた。値上げショックは全米に広がっており、50%程度を予想していた図書館関係者の失望は憤激に変わりつつある。「大手出版社は図書館を憎んでいる」と受け止めた関係者も少なくない。事態が感情的に悪化する前に、透明性があり、合理的、妥当なビジネスモデルを出版社が提案し、図書館の合意と協力の下に確立していく積極性が求められる。

購入数を制限せざるを得ない図書館

OverDriveから40ドルで購入できたJ.E.スミス著のアイゼンハワー伝が、一夜にして120ドルになっていた。印刷版は20ドルあまり(小売価格40ドルを図書館割引)。15ドルから45ドルになったものもある。2月2日に発表したガイドラインでは、図書館用卸価格は基本的に以下のようになっていた。

  • ハードカバー版として入手可能な新刊:$65-85
  • 発売後数ヵ月が経過しペーパーバック版発売期にあるタイトル:$25-50
  • ハードカバー版として入手可能な児童書新刊:$35-85
  • 既刊児童書およびペーパーバック版が入手可能なタイトル:$25-45
  • E-Book版は新刊と同時に提供されるが、1冊に対して同時に1人のみアクセスできる。

価格を3倍にしたということは、消耗しないE-Bookの平均貸出回数を機械的に印刷本の3倍にカウントし、利用実績を考慮しないことを意味する。しかし、同時に印刷版も購入している図書館の経済的負担は大きく、E-Book購入を断念するケースも出てくるだろう。予算が限られている以上、購入タイトルは大幅に減らさざるを得ない。RHのスポークスマンは、図書館からの貸出統計を得ることで、より妥当な価格設定が可能になるとして、今後の改訂に含みを持たせている。なお、オーディオブックについても値上げされるようだ。

単純に言って、これは「図書館はE-Bookを買わなくてよい」と言うに等しい。図書館割引どころか、図書館プレミアということだ。他のビッグシックスと同様、RHも同じスタンスということになる。部数が少なく、図書館が重要な市場である中小出版社と、ベストセラーをタダで読まれてしまう、と逆に被害者意識を持つ大手出版社の利害は異なる。デジタル化で好調な決算を出している大手出版社への風当たりは強まるだろう。

合理的で妥当性のある価格モデル開発が急務

ハーパー・コリンズ社が26回という貸出数制限を設けてから1年余りが経過したが、このビジネスモデルに対する図書館の反撥は、やや弱まってきたと言われる。HCボイコットに加わらず、これを受け容れた図書館のデータが集まってきたことで、「26回」の妥当性が検証できるようになってきたためだ。ニューヨーク市立図書館では、HCのE-Bookタイトル5,120点について、26回を超えたものはなかった。イリノイ州ではボイコットから外れる図書館も出てきた。ともかく、全く売らないよりは売るほうがいいし、売るなら回数制限のほうが受け容れられやすいということだろうか。

今後はバスケット(一括購入)や段階的回数キャップ、それらを組合せたものなど、デジタルならではのモデルが考案される可能性があるが、それにはOverDriveやアマゾンではなく、何よりも出版社の積極性が求められる。このままの状態では、出版社の社会性が厳しく問われることになるからである。

出版のエコシステムは、知のインフラとしての公共図書館が無償で本を貸し出すことで成り立っている。ほとんどの著者は図書館で多くの本に触れることで生れており、多くの本を買う読書家も図書館のヘビー・ユーザーで、読むだけの本と購入する本を分けていることが知られている。実際、図書館というものがなかったら、著者も読者も激減し、出版市場は10年余りで壊滅的打撃を受ける可能性がある。もともと本は、仮想的なネットワークとして存在してきたのだが、図書館が消滅すれば、それはインターネット上のライブラリが担う以外になく、アマゾンやGoogleが中心的役割を果たすことになるだろう。図書館を敵視する大手出版社は、アマゾンと中小出版社に力を与えているわけだが、彼らがそれに気がつく日が遠ければ、エコシステムは荒涼たるものとなっているだろう。電子図書館がアマゾン・プライムだけになったら、大手出版社は満足だろうか。  (鎌田、03/08/2012)

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