アマゾンは、会員制貸本サービスとも言えるKindle Owners’ Lending Library (KOLL)の実績を部分的に公表し、貸出が販売増に結びついていることを誇示した。昨年11月のスタートなので、まだ5ヵ月足らずだが、著者にとって、KOLLが貸出料とともに販売収入をももたらすことを示す狙いがある。しかしこれはとくに驚く結果ではない。Kindleであろうと図書館であろうと、もともと貸出と販売は矛盾しない。愛書家は多くの本を読みたいのであり、気に入ったものは買うというだけのことだ。
KOLLの貸本リストは、先月10万点を超えた。NY Timesのベストセラー・リストに掲載されたタイトルは100点あまりだが、大部分は自主出版サービス (Kindle Direct Publishing, KDP)を通じて発行されたものだ。著者がKDP Selectという「Kindle独占販売オプション」を選択した場合は自動的にKOLLのリストに含まれることになっている。
ベストセラーを続けているスーザン・コリンズの『ハンガー・ゲーム』三部作の場合、同書を借りたユーザーの各24%が、同じKOLLのリストにある“Catching Fire”と“Mockingjay”を購入した。KDPの作家の場合は、KDP Selectのトップ10の一人であるデボラ・ギアリーの作品を借りたユーザーの51%は彼女の作品を購入し、J.J.セラーズの作品を借りた25%が彼の作品を購入した。またKOLLの対象書籍の販売は、非対象書籍より3倍以上(229%)の成長を示している。
出版関係者の偏見はデジタル化で逆に強まっているようだが、多くの貸出利用者の利用動機は、本を買わずに済ますためではなく、購入したものの結果的に意に沿わなかった本を減らし、置いておきたい本の購入に回すためだ。貸出で容易に読めない本はハイリスク本となり、その売れ行きは書評やベストセラーリスト、友人の推薦など、公的・私的評価に依存するほかはない。言うまでもなく、それは小出版社、無名著者に不利になる。出版文化の衰退につながるだけでなく、資力のある大手にとっても、ますますハイリスク・ビジネスになるという悪循環となっている。KOLLの数字は、データに基づいて偏見を正す上で役立つだろう。 ◆ (鎌田、04/05/2012)